〇 数学の授業後・休み時間

チャイムが鳴り、授業が終わると同時に、紗菜は無言でノートを閉じた。
数学の勝負に負けたことが、どうにも納得がいかない。

紗菜(モノローグ)
「どうして……? 私が負けるなんて……」

ずっと学年トップを守り続けてきた自負がある。
それなのに、こんなあっさり負けるなんて――。

桃羽「紗菜、どうしたの? さっきから難しい顔してるけど」

親友の松島桃羽が、机に肘をつきながら覗き込んできた。

紗菜「……別に。ただ、ちょっと悔しいだけ」

桃羽「そりゃそうでしょ! まさか紗菜が桃瀬に負けるなんて、驚きだもん!」

クラスメイトたちも噂話をしている。
「三峰さんが負けたの意外じゃない?」
「やっぱ桃瀬くんってすごいね!」
そんな声があちこちから聞こえてくる。

桃羽「で? 罰ゲームは何なの? さっきの勝負、負けた方が勝った方のお願いを聞くってルールだったよね?」

紗菜「……それが、まだ聞いてない」

ちらりと隣を見ると、翼は余裕の笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。
紗菜が目を合わせると、彼はいたずらっぽく微笑む。

翼「なあ、紗菜。そろそろ俺のお願い、聞いてくれる?」

言いながら、翼は机に肘をついて、紗菜の顔を覗き込んでくる。
その距離の近さに、思わず紗菜は少し身を引いた。

紗菜「……何よ。まさか、とんでもないお願いじゃないでしょうね?」

翼「はは、そんなに警戒するなって。俺が頼むのはシンプルなことだよ」

そう言って、翼は一拍おいてから言った。

翼「今日の放課後、デートしようぜ」

――教室が、一瞬にして静まり返った。

そして次の瞬間――

「えええええ!?!?!?」

クラスメイトたちが一斉に叫び、騒然となる。
桃羽も目を丸くしていた。

桃羽「ちょ、ちょっと待って! 今、なんて言った!?」

翼「だから、デートしようって言ったんだよ」

翼は悪びれる様子もなく、笑顔でそう言った。

紗菜「……は?」

紗菜は絶句した。

紗菜(モノローグ)
「デート……? 私が……こいつと……?」

翼「な? 罰ゲームなんだから、ちゃんと聞いてくれるよな?」

その言葉に、紗菜は唇を噛み締める。
負けた以上、約束は守らなければならない。

紗菜(モノローグ)
「なんでこんなことになったの……!?」

こうして、紗菜と翼の"罰ゲームデート"が決まってしまった――。