紗理奈としてはどうにも気になっていた。
「誰にでもフルネーム呼びなのかなって、気にしてなかったんですけど、さっきはお兄ちゃんのこと、陽太って呼び捨てで呼んでいたじゃないですか?」
すると、真剣な表情で近江が問いかけてくる。
「下の名前だけで呼ばれたいのか?」
「ん? そうですね。これから先も私が堂本紗理奈のままで良いんだったら、それでよいですけど……同じ名字になったら、近江さんはどうするつもりなのかなって……」
すると、近江がその場に立ち止まった。
「……近江さん?」
見れば、近江は赤面したまま絶句していた。
「近江さん……?」
「同じ名字……堂本紗理奈が俺と同じ名字……」
どうやら同じ名字という単語が、近江の心に刺さったらしい。
「ええっと、近江さんにその気はなかったということですか? ちょっとだけがっかりです」
すると、近江がものすごい勢いで喰いついてきた。
彼の両手が紗理奈の肩をがっしり掴んでくる。
「いいや、そんなことはない。お前の口からそんな言葉が聞けて喜んでいるだけだ」
そうして、近江が頬を朱に染めながら告げてくる。
「お前も俺との結婚に前向きなようで安心している」
「ええっと……まあ、確かにそうですね」
紗理奈も頬を朱に染めた。
そんな風に言われると、紗理奈としても悪い気はしなかった。
「その場合、君も俺のことを名字呼びのままなのはおかしくないだろうか?」
「あ! 言われてみればそうですね!」
なんだか照れくさい。
気を取り直して、二人してしばらく前に進む。
森を抜けた先……
眩い光の下、煌めく場所が目に入る。
「わあ、すごく綺麗」


