そして、迎えた夏の休日。
警視長になって多忙な毎日を送っていた近江とは、紗理奈は久しぶりに外出していた。
どこへかというと……
正式に恋人同士になった紗理奈と近江は、紗理奈の兄・陽太の墓参りに来ていたのだった。
近江は黒いスーツを着用しており、紗理奈も黒いワンピース姿だ。
(近江さん、『俺たちのことを陽太に挨拶したい』って言い出したのよね)
生真面目な近江らしい。
(お兄ちゃんに挨拶に来てくれるなんて、近江さんは優しい)
青天の中、墓石に向かって二人で手を合わせた後、近江が厳かな口調で告げた。
「陽太、俺がお前の代わりに――お前の妹を必ず幸せにしてみせる」
力強い言い方に、彼が真剣な思いを抱いているのが、彼女にも伝わってくる。
近江の優しさが胸に染み入るようで、なんだか嬉しくて、紗理奈の口元が綻んだ。
「堂本陽太に挨拶は済んだ。さあ、行こうか、堂本紗理奈」
「はい、そうですね」
そうして、二人して陽太の墓を後にする。
しばらく森の中をゆっくりと歩む。
生い茂る緑が、ぎらつく夏の日差しを遮ってくれていた。
蒸し暑くて、少々汗ばむ。ちょうど涼し気な風が吹いてきて、気持ちが良かった。
「堂本紗理奈、君に謝罪しないといけないことがある」
「なんですか?」
近江は神妙な面持ちだ。
紗理奈がなんだろうかとドキドキしていると……
「君と出かける時、どうしてだか、山や田んぼなどの自然に囲まれた場所にばかりなることをだ」
紗理奈はしばらく黙っていたが……
「そんなことを気にされていたんですか?」
くすくすと笑った。
近江がバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「部下たちから言われたんだ。女性はもっとキラキラした場所が好みだと」
「まあ確かにそうですかね? 豪華なホテルのスイートルームやディナーとか海外旅行とかには憧れますかね」
「やはりそうか……善処しよう」
「ふふ、私は近江さんと一緒ならどこででも楽しいですから。ありがとうございます」
近江なりに色々と気を遣ってくれているようで、紗理奈はなんだか嬉しかった。
「そういえば、近江さん、ずっと気になっていたんですけれど」
「なんだ?」
紗理奈は長身の近江を見上げながら問いかけた。
「どうして、私のことをずっとフルネーム呼びなんですか?」
「ん?」


