「俺はずっと君の兄を殺した犯人を追っていた。君を守りやすいから、そう思って、君と一緒に暮らすことを申し出た。だが、君と一緒に暮らす内、君から目が離せなくなった」
「近江さん」
彼の手が彼女の頬に伸びてくる。
「勇気と無謀をはき違えるような女性にまさかこんなことをいうことになるとは、昔の俺だったら、思いもしなかっただろうが……」
そうして、近江がいつも以上に真剣な表情で告げてくる。
どこか不安そうに瞳に宿る光が揺れた。
「どうか俺と一緒になってほしい」
紗理奈の胸の内に春の風が舞い踊るかのようだった。
彼女はおずおずと尋ねる。
「一緒というのはどういう意味でしょうか?」
すると……
「一緒というのはだな……」
そうして、近江が頬を朱に染めながら気恥ずかしそうに告げてくる。
「どうか俺の伴侶になってほしい。恋人のフリではなく、これからは俺の本当のパートナーになってほしいんだ」
紗理奈としては気になっていることがある。おずおずと尋ねた。
「そのう、近江さんは駿河千絵さんという美人な婚約者さんがいたわけですけど……千絵さんがお兄ちゃんのことを好きだから、仕方なく私をパートナーに選んでいるとか……?」
近江はと言えば……キョトンとした表情を浮かべていた。
「駿河千絵との婚約の件は、そもそも親同士が勝手に話していたことだ。刑事時代の仲間だという認識はあるが、堂本陽太の想い人という認識の方が勝っている」
近江が淡々と告げてきた。
彼がそんな風に言うのだから、きっとそうなのだろう。
「それで? 堂本紗理奈、俺の話についてはどうだろうか?」
近江が紗理奈の顔を覗き込んでくる。
「一緒に暮らしたい」と話してきていた時のように、何やら必死な雰囲気を感じる。
(近江さんは嘘を吐いてないわ)
紗理奈はクスリと微笑んだ。
「堂本紗理奈、今の笑みにはどういう意図が隠されているんだろうか? 俺は色々な事件を解決してきて警視正まで実力で登りつめてきたはずだが、どうやら君に関する謎だけは自分自身だけでは解決できないらしい」
たじろぐ近江が紗理奈には面白い。
「それはですね……」
彼女は近江の頬を両手で包みこむ。
そうして……
そっと顔を近づけると、彼の唇をちゅっと奪った。
「な……」
困惑しながら赤面している近江に向かって紗理奈はにっこりと微笑んだ。
「ぜひ、ずっと貴方のそばにいさせてください、近江さん」
「なんて大胆な女性なんだ……」
先ほど以上に近江は顔を真っ赤にしていた。
「これからもどうぞよろしくお願いしますね」
紗理奈が告げると、近江がこれまでに見たことがないぐらい――蕩けるような甘い笑みを浮かべてくる。
「ああ、これからもずっと一緒にいてくれ」
そうして――星空に見守られながら……二人の唇がそっと重なり合ったのだった。


