近江はそれから、今回の騒動についても語ってくれた。
「牛口幸三が暴力団鼠川組とのコンタクトを頻回に取るようになってきた頃に、駿河千絵が真犯人だと嘘をついて警視庁へと脅迫状を送ってきていた。そうして、君にも鼠川組のヤクザをけしかけてきたりしはじめた」
「近江さんが最初に私を助けに来てくれた時のことですか?」
「ああ、そうだ。出会った当初には君がヤクザの記事を書いたから、ヤクザに狙われていたと思っていた。だが、あれも牛口幸三の仕業だと、後から分かったんだ」
そんな頃から、紗理奈は牛口に目をつけられていたのだと思うと、背筋にゾクリと嫌な感覚が駆け抜けた。
「それからしばらくして、犯人が牛口幸三だろうと当たりをつけて、俺は裏で色々と動いていたんだ。牛口が君の新聞社のライバル新聞社を買収したことが分かったから、俺はわざとそれに乗じてあいつを逮捕しようと考えていたんだ」
「え? そうだったんですか!?」
「ああ」
そういえば、近江と別れる直前に「君がおかしな選択をしないでくれることを祈る」みたいなことを話していた気がする。
紗理奈は頭を抱えて反省する。
「私ってば余計なことを……」
「いいや、そんなことはないさ。君がいなかったら、遺留品の警察バッジという決定的な証拠についても分からなくなっていただろうし、駿河千絵の牛口幸三への復讐を止められれなかったかもしれない。助かったよ」
ふと、近江の顔を見る。
先程以上に真摯な眼差しを向けられており、紗理奈の心臓が跳ね上がる。
「堂本紗理奈、脅迫状を送ってきていた犯人と君の兄の事件の真犯人、どちらも捕まった」
「はい」
「だから、もう君と一緒に過ごす理由はなくなった」
「そう……ですね」
答えながら、なんだか紗理奈の胸は苦しかった。
「堂本紗理奈」
近江が紗理奈の顔を覗いてくる。
あまりに真摯な眼差しで、相手から目が離せそうにない。


