「だが、君が君らしく振舞っているのは、一緒に過ごしていて、俺も気楽で良い」
近江の口元が綻んだ。
滅多に見れない笑顔を前に、紗理奈の鼓動が少々早くなる。
(近江さんも、私に負けず劣らず、直球で喋ってくるタイプなんだから。なんだか最近ドキドキして落ち着かないったら……)
逸る気持ちを落ち着けながら、紗理奈もゼリーを全て平らげた。
「さて、一緒に片付けでもしようか」
「はい、ありがとうございます!」
そうして、二人で皿洗いをする。
こうやって二人揃っての夕ご飯の後の日課になりつつあった。
(なんだか本当に新婚っぽい)
皿洗いをしながら、チラリと近江へと視線を向ける。
家事をしている姿も、まるでドラマの中の俳優が動いているようで、様になっている。
すると、近江が紗理奈の視線に気づいたのか声をかけてくる。
「どうした? そんなにまじまじと見つめられると集中できないんだが」
「ええ、いいえ、ついつい」
「……そうか?」
そうして、皿を全て洗い終わった頃、近江がタオルで手を拭きながら、紗理奈に声をかけてきた。
「そういえば、春野菜はどこで仕入れてきたものだろうか?」
「え? ネットスーパーですよ?」
「ネットスーパー?」
「そうです。今のご時世、ネットスーパーというものがあるので困りません」
「そうか」
紗理奈は却って気になった。
「近江さんは、いったいどこで食材をご購入されていたんですか?」
なんとなくスーパーを彷徨う彼は想像ができない。
「ああ、俺の場合は、定期的に近江家の料理人が食材を運んでくれているんだ。だが、最近は仕事で帰りが遅いことが多いから、しばらく届けないでくれと頼んでいたんだ。そのままだったことを思い出したが、君が食材を入手していたから、どうしてだろうと気になったんだ」
「料理人」という言葉を耳にして、紗理奈はクラリとした。こういう話を聞くと、近江はやはり御曹司なのだと分かる。
「食材というのは料理人が購入するものだと思っていたから、ネットスーパーとは新鮮だな」
「野菜の傷み具合なんかを知りたいから、本当はスーパーに直接足を運びたいんですけどね」
すると、近江が顎に手を当て「ふむ」と頷いていた。
「明日は土曜日で休みがもらえた」
「……そうなんですね?」
話の脈絡のなさに、紗理奈は少々戸惑った。
すると、近江が真っすぐに告げてくる。
「せっかくだから、一緒に買い物にでも行こう」
「え?」
かくして――初デート先がまさかのスーパーでの食材の買い出しになったのだった。


