紗理奈が戸惑っていると、近江がポツリと呟いた。

「君が一緒に暮らすのに前向きで良かった」

 こちらから覗く近江の肌は真っ赤で、かなり恥ずかしがっていることに気付いてしまった。年上男性のそんな姿を見ていると、紗理奈まで恥ずかしくなってきてしまう。
 無表情な近江の可愛い姿を目の当たりにしてしまい、紗理奈の胸がきゅんと疼いた。

(相手が美形だからって、現金よ、紗理奈)

 紗理奈が掌をヒラヒラさせて、火照った頬を覚ますことにする。
 すると……

「あとは一つだけ頼みがある」

 近江の声がなんとなくか細い。

「どうしましたか?」

 だがしかし、なかなか返事がない。
 紗理奈が業を煮やしかけていると……

「良ければ、着替えてもらえないだろうか?」

 突然、近江から着替えを促されて面食らってしまう。
 さっさと引っ越しに取り掛かりたいということだろうか?
 それにしたって、どうしてだか近江がこちらを振り向いてくれない。

「近江さん?」

「パジャマの、胸元」

 そこから、近江の声はどんどん小さくなっていく。
 胸元と言われたので、紗理奈は自身の胸元を覗く。

「……っ!」

 パジャマの胸元がはだけたままだったことに気付いてしまう。
 羞恥に耐えられず、紗理奈は声にならない声を上げたのだった。