紗理奈の胸がなんとなくざわついた。おそるおそる尋ねてみる。
「そう言われれば、近江さんは飲み会に昨晩行っていたんですよね?」
「そうだな。他部署の同期たちに突然呼ばれたんだ」
紗理奈は固唾を飲んで見守った。
「最近、交際相手が出来たと話して、女性達も参加しているような飲み会には行きたくないと断っていたんだが、どうしてだかしつこく誘われてな」
「交際相手? ええっと、近江さんに交際相手が出来たんなら、さすがに私と一緒に暮らすのは良くないんじゃ?」
「何を言っている? 交際相手とは、君のことだ」
「え!?」
紗理奈は衝撃を受けた。
「警察の皆さんは、犯人が捕まるまでの間の保護対象だって、だから一応恋人の体裁をとっているんだって御存知なんじゃないんですか?」
「敵を欺くならまず味方からというのは鉄板だろう? 俺たちが期間限定の恋人同士であることは、俺たちしか知らない機密事項だ」
「そうだったんですね」
「そもそも俺としては期間限定のつもりは……」
紗理奈は近江の呟きは無視した。
「最近出来た恋人のことを知りたいと言われてしまったんだ。どうやら、さしで飲みたかったらしい。君のことを根掘り葉掘り聞いて来られたが、そもそも詳細は知らないし、下手に喋っていないので安心してほしい」
近江は誠実な人物のようで、彼女がいるのに合コンに積極的に向かうタイプではないようだ。
それにしても……
かなりモテるタイプの男性のようだが、どうして三十近くまで誰とも交際して来なかったのだろう。
女性はどちらかと言えば、選り取り見取りな印象の方が強い。
ますます謎が深まっていく。
すると、近江がじっと紗理奈の顔を凝視してきていた。
この世の者とは思えないほどの美形に、そんなにじっと見られると、紗理奈も戸惑ってしまう。
「ええっと?」
「何か考え事をしているようだったが、何かおかしなことがあったら教えてほしい。何を悩んでいたのだろうか?」
紗理奈が何かに悩んでいると思ったようだ。
「それはですね、ちょっと考えていまして……そのう、今日、私は寝坊しちゃったじゃないですか?」
「確かにそうだな」
「だから、一緒に暮らし始めたら、二人して寝坊しそうで心配ですね、なんて……」
すると、近江がふいっと顔を背けた。
(やっぱり二人して寝坊するのは嫌だった?)


