クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる

「ところで、堂本紗理奈は朝が弱い性質なのだろうか?」

 近江に真剣な表情を向けられてしまい、紗理奈の心臓がドキンと大きく跳ねた。

「ええっとですね」

 冷や汗が流れ落ちていく。
 紗理奈は朝起きるのがとても苦手だ。
 学生時代なんかは、兄が起こしてくれていたからどうにかなっていたようなものだ。
 けれども、兄がいなくなってしまって、目覚まし時計を三個準備して、なんとか仕事に迎えているといった調子である。

(うう、誤魔化したいけれど……)

 近江とは、これから一緒に暮らす予定だ。こんなところで見栄を張って嘘を吐いたとしても、ゆくゆくはバレてしまう。今の内に真実を告げておいた方が良いだろう。
 紗理奈が考えあぐねていると、近江が先に口を開いた。

「俺もあまり寝起きがよくないタイプでな」

「ですが、今日は時間バッチリでしたよね?」

「ああ、それはな。今日、君と約束をしていると話したら、部下の一人が朝まで起きておけと言って、朝方まで飲みに付き合わされたんだ」

「え?」

 紗理奈は目を真ん丸に見開いた。

「すごく心配性な部下でな。『近江警視正は、見た目も良いし、仕事もできるし、武道にも長けているし、どうしてだか婦警たちには大人気だが、何分感情に乏しいし、人との関わりが苦手だから、心配だ』とよく話してくる」

 近江は自分自身が容姿端麗で頭脳明晰であることを否定はしていないようだった。さらに言えば、人間関係構築に問題ありげな発言を部下からされているようだが、近江本人はあまり気に留めていないようだった。

(感情の機微に乏しいというか……)

 どちらかと言えば正直な部類の男性だし、紗理奈個人としては、見ていて面白くはある。

「部下の方と仲が良いんですね」

 なんとなく後輩たちから慕われている印象がある。
 紗理奈が告げると、近江が淡々と返事をした。

「職場の人間に対して、仲が良いかどうかはあまり気にしていなかったが、そうかもしれないな」

「そんな気がします」

「そうか。だが、元々同期たちからよく飲みに誘われていたんだが、この職位に就いてからは飲みに誘われなくなったんだ」

「それはまあ、上司がいると飲みづらいからでは?」

 紗理奈は近江の話に前のめりになった。

「それもそうなんだが。昔は、女性達と飲み会をするからと無理やり連れて行かれることが多かったんだがな……」

 なぜかそこで近江が言い淀んだ。紗理奈の新聞記者としての血が騒ぎはじめる。

「もしかして、『お前を連れて行くと女性が集まるが、女性達はお前のところにばかり行くから、ムカつく』とかなんとか言われてしまったとか?」

 彼女が喜々として問いかけると、彼が「ん?」と反応した。

「君は、俺の張り込みでもしていたのだろうか?」

 どうやら紗理奈の勘は当たったようだ。

「いいえ、特には。近江さん、すごくカッコイイので、もしかしてと思いまして」

「そうか。まあ、そういう経緯で、女性達が一緒の飲み会に誘われても、俺の方から断わるようにしていたんだが、昨日は強引に誘われてしまってな」

 つまるところ、昨晩の近江は、いわゆる合コンに誘われていたのだろう。

(だとしたら、昨日も合コン?)