翌朝。
紗理奈は目が覚めて改めて身体を起こす。
「あれ、私は……?」
そこでハッと気づく。
(そうだ、酔っぱらったあげくの果てに、熱を出してしまったんだった!)
熱が上がり切った後、しっかり熱が下がったのか、紗理奈は調子がすっかり良くなっていた。
今いる場所は、おそらく近江の部屋だろう。
ものすごく綺麗に片付いている部屋だ。
普段から塵一つ落とさないと言わんばかりに綺麗に掃除をして、四角四面に整えているのだろう。
(すごく真面目で几帳面な性格なんだわ)
真顔で掃除をする近江の姿が目に浮かぶようだった。
(それにしたって近江さんはどこだろう?)
キョロキョロと部屋の中を見渡すがいない。
ベッドを降りると、左手の壁には巨大なテレビが飾られており、部屋の中央にはガラステーブル、反対側の壁際には黒革張りのソファが置いてある。
ちょうどテーブルの上にデジタル時計がある。時刻は朝の六時だが、もう出勤したのだろうか?
ふと、時計の傍に一枚の紙きれが置いてある。
「これは私宛みたいね?」
習字でも習っていたのだろうか?
白いメモ用紙には流麗な筆致で文字が書かれていた。
『今日は非番だが、少しだけ警視庁に顔を出したい。その後、話がある』
紗理奈はそっとメモをテーブルの上に置く。
「お酒に酔った私を介抱してくれたお礼を言いたかったし、何かお返しをしたかったけれど……」
帰ってくるのを待っていた方が良いだろうか?
とはいえ、相手が何時に帰ってくるかも分からないし、見知らぬ場所で長居もあまりしたくない。
「そもそも警察のお世話にこれ以上なりたくないし」
だけど礼儀を失するのも宜しくない。
「SNSメッセージのIDは置いて行くべき?」
とりあえず、メモの端に携帯電話の番号とLINEのIDを記載しておいた。
あとは青いハンカチもそばに返しておく。
衣服の乱れを整えると、扉を開く。
どうやら高層マンションの上層階のようだ。
エレベーターに乗って階下に降りる。
正面フロントの自動ドアを抜けた先には、区画整備された街路樹が見える。
どうやら閑静な住宅街の一角にある建物のようだ。
土曜日ということもあってか、歩いているのも数名しかおらず、とても静かだ。
舗装された道の上をヒールで一歩、踏み出した、その時。


