すべてはあの花のために①


 チカゼの目は、驚きで大きく開かれる。
 葵が、悩むことなく『彼女』と、そう言ったからだろう。

 彼は、視線で訴えた。――知っているのか、と。


「……きっとね? その人もチカくんと一緒で、話してないことがあるんだと思うんだ。両親にも、婚約者にも、そして大好きでしょうがない、“生徒じゃない彼”にも」

「…………」

「たくさんたくさん話して? 届くまで、しっかり話すんだ。そこまでいってないのに、途中で諦めちゃダメだよ!」


 最後に「わたしは、そう思うよ?」と、そう伝え終わった時にはもう、彼の瞳に迷いはなかった。



「そっか。オレ、全然あいつと話せてなかったんだな。そうする前から諦めたらダメだよな、やっぱり」


 スッキリした面持ちで、彼は最後にお得意のスマイルを見せてくれた。少し、鼻血が出そうになった。
 鼻を押さえている葵を余所に、「さんきゅ」と。そう言ってくれた彼の笑顔は、先程の笑顔とは違い、少し大人びて見えた。


「それにしてもお前さ、いつ――――」


 その問いに、葵は答えなかった。彼らをよく見ていれば、すぐ気付くことだ。
 君も、彼女も。そして……彼も。


「(マジで? 最初っからってこと? てことは、オレがそれで悩んでんのも知ってたり……)」


 そしてチカゼは思った。

 いや、怖えわ。普通に怖えわと。
 そこまで見られてたなんてと。
 もう、考えるのはよしとこう……と。


 彼がそんなことを考えているのも大体お見通しな葵が『もう大丈夫そうだな』そう思っていると、残り時間があと15分になっていた。


「(15分だったらまあ大丈夫だろう)」

「(ここに隠れていよう)」


 と、葵とチカゼは思っていた。

 ……が。まあ、世の中そんなに甘くない。