チカゼの目は、驚きで大きく開かれる。
葵が、悩むことなく『彼女』と、そう言ったからだろう。
彼は、視線で訴えた。――知っているのか、と。
「……きっとね? その人もチカくんと一緒で、話してないことがあるんだと思うんだ。両親にも、婚約者にも、そして大好きでしょうがない、“生徒じゃない彼”にも」
「…………」
「たくさんたくさん話して? 届くまで、しっかり話すんだ。そこまでいってないのに、途中で諦めちゃダメだよ!」
最後に「わたしは、そう思うよ?」と、そう伝え終わった時にはもう、彼の瞳に迷いはなかった。
「そっか。オレ、全然あいつと話せてなかったんだな。そうする前から諦めたらダメだよな、やっぱり」
スッキリした面持ちで、彼は最後にお得意のスマイルを見せてくれた。少し、鼻血が出そうになった。
鼻を押さえている葵を余所に、「さんきゅ」と。そう言ってくれた彼の笑顔は、先程の笑顔とは違い、少し大人びて見えた。
「それにしてもお前さ、いつ――――」
その問いに、葵は答えなかった。彼らをよく見ていれば、すぐ気付くことだ。
君も、彼女も。そして……彼も。
「(マジで? 最初っからってこと? てことは、オレがそれで悩んでんのも知ってたり……)」
そしてチカゼは思った。
いや、怖えわ。普通に怖えわと。
そこまで見られてたなんてと。
もう、考えるのはよしとこう……と。
彼がそんなことを考えているのも大体お見通しな葵が『もう大丈夫そうだな』そう思っていると、残り時間があと15分になっていた。
「(15分だったらまあ大丈夫だろう)」
「(ここに隠れていよう)」
と、葵とチカゼは思っていた。
……が。まあ、世の中そんなに甘くない。



