「悪ぃ悪ぃ」と、彼はお得意の笑顔になる。
これならもう安心だが、それにしても……。
「いやー、カナの言う通りだな。言いたくなくても、言いたくなっちまうよ、今のは」
「そ、そう? ていうか、そのカナデくんの言う通りって言うのは……?」
「ああ。……昨日な、帰りが一緒だったカナに聞いた。教室で何を話してたのか。それで、オレらの分まで怒ってくれたお礼をしたのと、怒っちまった理由を話したんだって聞いたんだ」
「そしたらな?」って、彼が本当に嬉しそうに話すもんだから、葵もついつい聞き入ってしまう。
「最初は、やっぱり話すのがしんどかったんだと。……なんでカナがああなっちまったのか。オレらは大体予想はついて知ってるけど、それでも、改めて話すのはつらいみてー」
そうだ。彼は確かにあの時、話す前はとても苦しそうにしていたんだ。
「そう思ってたはずなのに、お前が話しやすいように声、かけてくれたんだって言ってた」
そんな風に思ってくれてたのか。誰かの……いや。彼らのために少しでもなれたなら、よかった。
「カナに、ああやって話せる奴ができて、オレらも嬉しいんだ。ありがとな」
「えーっと。わたしは、感謝されるようなことをした覚えはないよ? だって友達だから。わたしは、当たり前のことをしたと思ってるんだ」
――……だけど。
「でも、そう言ってくれて嬉しい。わたしも、どうもありがとうっ」
そう言うと、チカゼは少し顔を逸らしながら、照れくさそうに頬をポリポリ掻いていた。その横顔は、ほんの少し、赤くなっているように見えた。
「ま、オレは最初っから、ある程度お前には言うつもりだったけどな。でも気を付けろよ? あんな、ストレートに聞いてくる奴、この学校にはいねーぞ」
「ええ!? で、でも、しょうがないじゃないか。だって――」
「だってオレらはもう、友達だもんなー?」
彼の笑顔が、素敵で。眩しくて。ちょっと、見られなくて。
今度は葵が、顔を逸らす番だった。
葵の心情を知ってか知らずか、チカゼはゆっくりと話を切り出した。
「んじゃ、オレもこう言っとこうか。カナの話を聞いてくれたお礼に、オレの話も聞いてくれる?」
「――! もちろんだとも!」
一体、カナデからどこまで聞いているのだろう。
……いや、全部だろうな。きっとそうだ。
そうして彼は、どうしてあんな顔をしていたのかを話し出す。
「……オレの大事な奴がな、“オレの考える生徒会メンバー”なんだ」



