すべてはあの花のために①


 急に黙ってしまった彼の様子が流石におかしいと思いはじめた葵は、顔を覗き込もうとしたが「も、もういいだろ。離れろや」と、逃げられてしまった。

 離れたものの、彼は一向に話そうとしてくれない。気分でも悪くなったのかと思って一度声をかけてみるが、無言のままだ。


「ち、チカくん? どうした? 気分でも悪くなったのか?」

「……~~っ、今ちょっと黙ってろ。精神統一してっから!」


 心を乱されたチカゼさん。
 何度も何度も深呼吸を試みているが、その横で葵さんは首を傾げるばかり。そりゃそうだろうよ。


「(は〜い。わけがわかりません。精神統一……瓦でも割るつもりなのかな?)」


 ……! それとも――――


「いーやあー! わたしの頭は割らないでえー!!」

「?! はああ!?」


 自分の頭が標的なのではと葵は思ったが、どうやらそういうことではないらしかった。
(※そりゃそうだ)


「本当に、頼むからちょっと待て」と、待てのポーズ。彼のもう片方の手は、自分の顔を半分覆っていた。


「……なんでこんな奴に……」

「こんな奴とは失礼な」


 独り言は、是非とも聞こえないように言ってくれ。
 そんな葵の要求も、「なんで、よりにもよってオレが……」みたいなことを言いながら固まってしまっている本人には、全くと言っていいほど聞こえていないのだけど。

 一体、何をそんなに悩んでいるのやら。


「はあ。……で? 何の話だっけか」

「チカくん、もしかして熱でもある?(頭の打ちどころでも悪かったかな)」

「ね、ねえよ!」

「あ、そう? ならいいんだけど(じゃあ若干涙声なのは気のせいか)」


 明らかに動揺し過ぎである。
 大きいため息ついて統一したのかどうか知らないけど、ま。それはさておき本題に行きましょう。

 どうして葵はこんなに生徒から追いかけ回されているんでしょうか! アンサープリーズ!


「お前さ、桜のジンクスって知ってるか」

「っていうと、あれじゃないの。【Sクラスの生徒になって玉の輿~】ってヤツ」

「それ関連の“ジンクス”ってうち、結構あるんだよ。んで、今回追われているのもその一つってわけだ」

「大体の感じは掴めたけど、取り敢えず今はどうしてこんな状況になってるの?」


「ああ、それはな……」と、チカゼはおバカな葵に丁寧にわかりやすく、時々面白可笑しく説明してくれた。