「ま、葵は特に何も考えなくていいよ。確かにこれから大変になるとは思う。だから、ただでさえ今日は、こんなにも遅くなってしまった。……でも、やることは変わらない。そうでしょ?」
「うん。それは絶対に変わらないよ。ただ……」
何を葵は思っているのか。今までで一番苦しそうだ。
その顔を見ているだけで、シントも胸が苦しくなる。
「少なくとも、生徒会に入ることは大丈夫だと思うよ。問題はその先だ」
「……わかってる」
「だと思うよ。葵はバカだけど、ちゃんと考えてる」
「(ば、バカ!?)」
「だから葵、もう一回整理しとこう」
「え?」
「まず一つ目は、Sクラスできちんと卒業すること。二つ目は、生徒会の仕事をきちんと熟すこと。これを熟しておけば、一つ目は問題ないかも知れないけど……」
シントは指を一本ずつ立てながら「次に」と続ける。
「三つ目は海棠実の、願いを叶えること。四つ目は、きちんと帰ってくること。最後に五つ目は、“無理をし過ぎない”こと。きっと葵には、これが一番難しいね。お前は優しいから」
「で、でも。願いを叶えるのに、それは必然的に難しいんじゃ……」
「……いい葵? 俺は、無理し過ぎないことって言ったんだよ。必然的に、少々の無理はすることになるとは思う。ただ、加減? それは気を付けなきゃいけないよ」
「…………」
葵は、シントと目を合わさずにただ、俯いていた。
シントは一つため息を落とした後、片膝をついて下から葵を見上げる。
「葵」
名前を呼ぶ。それでも合わせようとしてくれない彼女の頬を、両手でぶちゅっと潰して、無理矢理目を合わせた。
「無理をしたいって気持ちはよくわかる。せっかくできた友達なんだ。でもわかって葵」
「……し、んと」
「違うか。そうだね。葵はもうわかってるんだ。だったらもう、大丈夫だね」
「……ん。だいじょうぶ、だよ。シント。わた、しはっ。だ、いじょう。ぶ……――っ」
彼女は言っている途中から立っていられなくなり、ぺたんと座り込んで声を押し殺していた。
そんな彼女をしっかり包み込むように。シントはそっと、彼女が泣き止むまでずっと、そばにいてやった。
「(大丈夫だ。俺は、あの時からずっと――)」
お前のためにだけに、あるんだから。



