すべてはあの花のために①


「ま、葵は特に何も考えなくていいよ。確かにこれから大変になるとは思う。だから、ただでさえ今日は、こんなにも遅くなってしまった。……でも、やることは変わらない。そうでしょ?」

「うん。それは絶対に変わらないよ。ただ……」


 何を葵は思っているのか。今までで一番苦しそうだ。
 その顔を見ているだけで、シントも胸が苦しくなる。


「少なくとも、生徒会に入ることは大丈夫だと思うよ。問題はその先だ」

「……わかってる」

「だと思うよ。葵はバカだけど、ちゃんと考えてる」

「(ば、バカ!?)」

「だから葵、もう一回整理しとこう」

「え?」

「まず一つ目は、Sクラスできちんと卒業すること。二つ目は、生徒会の仕事をきちんと熟すこと。これを熟しておけば、一つ目は問題ないかも知れないけど……」


 シントは指を一本ずつ立てながら「次に」と続ける。


「三つ目は海棠実の、願いを叶えること。四つ目は、きちんと(、、、、)帰ってくること。最後に五つ目は、“無理をし過ぎない”こと。きっと葵には、これが一番難しいね。お前は優しいから」

「で、でも。願いを叶えるのに、それは必然的に難しいんじゃ……」

「……いい葵? 俺は、無理し過ぎないことって言ったんだよ。必然的に、少々の無理はすることになるとは思う。ただ、加減? それは気を付けなきゃいけないよ」

「…………」


 葵は、シントと目を合わさずにただ、俯いていた。

 シントは一つため息を落とした後、片膝をついて下から葵を見上げる。


「葵」


 名前を呼ぶ。それでも合わせようとしてくれない彼女の頬を、両手でぶちゅっと潰して、無理矢理目を合わせた。


「無理をしたいって気持ちはよくわかる。せっかくできた友達なんだ。でもわかって葵」

「……し、んと」

「違うか。そうだね。葵はもうわかってるんだ。だったらもう、大丈夫だね」

「……ん。だいじょうぶ、だよ。シント。わた、しはっ。だ、いじょう。ぶ……――っ」


 彼女は言っている途中から立っていられなくなり、ぺたんと座り込んで声を押し殺していた。

 そんな彼女をしっかり包み込むように。シントはそっと、彼女が泣き止むまでずっと、そばにいてやった。



「(大丈夫だ。俺は、あの時からずっと――)」


 お前のためにだけに、あるんだから。