すべてはあの花のために①


 二人の目が、ゆっくりと見開かれる。
 葵の言いたいことが伝わったのだろう。アキラは微かに笑って葵に答えた。


「そうだな。わかった。葵の言う通り、“無理だけは”しない。一人で無理をしてしまわないように、情報収集は必ず二人か三人はいるようにしよう。お前も、それでいいな翼」

「普段もあんまり一人で行動することはないけど。わかったわよー。何かあったらいけないし?」


 二人がそう言ってくれて一安心だ。
 これでもし、一人に何かあったとしても、何かがあったことは、誰かに伝わるだろうから。


 葵がほっとしていると、後頭部をパシッと叩かれた。


「痛っ! 何すんのツバサくん!」

「もう、アンタは心配し過ぎなのよ。今そんなに心配してたら将来ハゲるわよ」


「それじゃあね~」そう言い逃げしていったツバサとも、どうやらここでお別れのようだ。


「(もう! なんだって言うんだ! てかなんで叩かれないといけないんだ!? これ以上脳細胞が減ったらどうしてくれるんだ!!)」
(※けど、内心は将来のハゲを心配している)


 そう思っていると、今度は頭が少し重くなる。
 見上げると、アキラの手が置かれていた。

 アキラはふっと、僅かに目元を細める。
 それを見て葵は姿勢を正し、ツバサが消えていった方を見つめた。


「アキラくん。わたし、人に素直に伝えることが苦手みたいで。上手く言葉が出てこないんだ。こんなに近しい人っていなかったから、伝え方間違ってるかも知れない……」


 ……ツバサくん、怒ったのかな。

 その不安が口からこぼれると、頭の上に乗っていた手が急に激しく動き出した。


「ちょっと……!」


 顔を上げると、アキラは優しく頬を緩めていた。


「(――わ。……こんな顔、するんだ……)」

「葵」

「は、はい!」


 ドクンッ――名前を呼ばれただけで、こんなにも体の中で大きく脈を打つのは、本当に自分の心臓なのか。


「もし、言葉が足りなくて伝え方が間違っていたとしても、あいつはさっき嬉しそうな顔だった。だから、お前の気持ちは十分伝わってる。それに、言葉が足りないのは翼も同じだ。だから」


 そして、彼は最後に付け加えた。


「だから、翼の代わりに俺が足しておく。俺らのこと心配してくれて、ありがとう。頼れって言ってくれて、ありがとう。俺らと友達に、仲間になってくれて。……ありがとう」


 きちんと言葉にできなくても。全て拾い上げて素直にそう言ってくれた彼が、あまりにも綺麗な顔で微笑むもんだから、葵もつられて笑顔に、素直になる。



「……どういたしましてっ」


 二人笑い合いながら、帰路に着いた。