二人の目が、ゆっくりと見開かれる。
葵の言いたいことが伝わったのだろう。アキラは微かに笑って葵に答えた。
「そうだな。わかった。葵の言う通り、“無理だけは”しない。一人で無理をしてしまわないように、情報収集は必ず二人か三人はいるようにしよう。お前も、それでいいな翼」
「普段もあんまり一人で行動することはないけど。わかったわよー。何かあったらいけないし?」
二人がそう言ってくれて一安心だ。
これでもし、一人に何かあったとしても、何かがあったことは、誰かに伝わるだろうから。
葵がほっとしていると、後頭部をパシッと叩かれた。
「痛っ! 何すんのツバサくん!」
「もう、アンタは心配し過ぎなのよ。今そんなに心配してたら将来ハゲるわよ」
「それじゃあね~」そう言い逃げしていったツバサとも、どうやらここでお別れのようだ。
「(もう! なんだって言うんだ! てかなんで叩かれないといけないんだ!? これ以上脳細胞が減ったらどうしてくれるんだ!!)」
(※けど、内心は将来のハゲを心配している)
そう思っていると、今度は頭が少し重くなる。
見上げると、アキラの手が置かれていた。
アキラはふっと、僅かに目元を細める。
それを見て葵は姿勢を正し、ツバサが消えていった方を見つめた。
「アキラくん。わたし、人に素直に伝えることが苦手みたいで。上手く言葉が出てこないんだ。こんなに近しい人っていなかったから、伝え方間違ってるかも知れない……」
……ツバサくん、怒ったのかな。
その不安が口からこぼれると、頭の上に乗っていた手が急に激しく動き出した。
「ちょっと……!」
顔を上げると、アキラは優しく頬を緩めていた。
「(――わ。……こんな顔、するんだ……)」
「葵」
「は、はい!」
ドクンッ――名前を呼ばれただけで、こんなにも体の中で大きく脈を打つのは、本当に自分の心臓なのか。
「もし、言葉が足りなくて伝え方が間違っていたとしても、あいつはさっき嬉しそうな顔だった。だから、お前の気持ちは十分伝わってる。それに、言葉が足りないのは翼も同じだ。だから」
そして、彼は最後に付け加えた。
「だから、翼の代わりに俺が足しておく。俺らのこと心配してくれて、ありがとう。頼れって言ってくれて、ありがとう。俺らと友達に、仲間になってくれて。……ありがとう」
きちんと言葉にできなくても。全て拾い上げて素直にそう言ってくれた彼が、あまりにも綺麗な顔で微笑むもんだから、葵もつられて笑顔に、素直になる。
「……どういたしましてっ」
二人笑い合いながら、帰路に着いた。



