すべてはあの花のために①


 ――パンッ!!


 で、ですよねえー……。

 アキラの顔は顔面どころか、頭まるごとピンクのガムで覆い尽くされていた。


「(あんたは一体何やってんだ!)」


 ビックリしたのかアキラは固まり、チカゼは目を大きく見開いている。
 ようやくピンクの世界から帰ってきたのか。アキラは当たり前のように指でガムを口元に戻し、そして何事もなかったかのようにまた噛み始める。

 チカゼはまたアキラを尊敬の眼差しで見つめており、「やっぱすっげーな、アキは!」と言っているように聞こえる。その反応を見て、『だろ?』みたいなドヤ顔をしているアキラ。


 ……誰も止める気、ないのか。
 可哀想な不良さん。声をかけたのが運の尽きだったね。そう思っていた時。



「は?! な、なんでなんだツバサさん……!」


 え? なになに? どうしたの?
 不良さんは、必死な様子でツバサの肩を掴んでいた。


「なんで、俺じゃダメなんだ!!」


 え?! もうそんな話までいってたの!?
 あなたたち付き合おう的な話してるの!?


「だ・か・ら。アタシはー、アンタみたいな“男”には興味がないって言ってんの(汚い手で触んな)」


 ペシッと不良さんの手を払い、何もなかったかのようにこっちへ戻ってくるツバサ。
 どうやら彼はあんな形だが、そういう対象はちゃんと女性らしい。そして最後に――――。


「アンタ男なんでしょ? アタシ(、、、)より立派なもん付けてから出直してこいや」


 ……いや。それ、どう考えたってヤバいですよね?
 ほら! さっきまで話してた不良さん! 顔が青くなってきてますよ! 泡吹いちゃってますよ?!


 あちらさんなんかは、多分状況が飲み込めたんでしょうよ。彼を馬鹿にされて、今にも襲いかかってきそう。まあそもそも騙された彼が悪いんだけど。

 こっちのメンバーは……あっ、そうですよねー。皆さん必死に笑いを抑えてらっしゃる。



「くっ、……くそお! お前ら! やっちまえぇええぇー……っ!」


 馬鹿にされた不良さんが半分泣きながらそう言う。後ろにいた不良さんたちは、哀れむような目で見ながらこちらに襲いかかってきた。


「(やっばいじゃん! ここは流石にわたしが行かないと)」


 袖を捲り上げてやる気満々で戦いに行こうとしたら、後ろから両肩を掴まれ、止められてしまった。


「(な?! 何故止めるんだ! めちゃ強お嬢様なんだぞ設定では! 主役が出ないでどうするんだー!)」


 本当はめちゃくちゃ出たかった葵を止めたのはなんと、オウリとアカネだった。


 彼らは葵の顔を覗き込むように見つめた後、


 ――見てて。

 やる気で満ちた瞳。ウインク付きの笑顔が、そう言っていた。