すべてはあの花のために①


 それではここら辺でもう少し、彼女の紹介をしておきましょう。

 彼女の名前は、道明寺葵。昨年の春から桜ヶ丘高校に通う、今日から高校二年生。
 実はこの学校。小学校の試験を合格すれば、高校まで進学できちゃうエスカレーター式。もちろん途中からの編入は可能だが、編入試験が途轍もなく難しく。小学校から顔触れはほぼ変わらず、見た顔ばかり。

 しかし彼女。以前は違う学校に通っていたらしいが、訳あって昨年、この学校に編入してきたそうだ。


「(その訳っていうのが、“道明寺のため”になるんだけどね……)」


【道明寺財閥】
 古くから歴代に渡って守られてきた、由緒正しい財閥のうちの一つ。
 だが、過去にかなり危機的状況までに陥り、長期間に渡り低迷。虫の息となり一度散りかけたが、それを無事立て直し今に至る。

 けれど最近、またその兆候が現れはじめ、存続が危ういやら何やらで……。


 そんな、ピンチを迎えた道明寺の、取った作戦がこれだ!

『葵を桜に通わせてー、Sクラスになってもらってー、将来的に道明寺をちょっとでも支えてもらっちゃおうよ!』

「(ま、大雑把に言ったらねー)」


 大雑把って。



 ……えー、ごほん。
 どうやら、その危うい感じは表には出てないようで、お金持ちの生徒たちは少しでも取り入ろうと、毎日のように取っ替え引っ替え。
 途中編入と、財閥令嬢。それが原因となって、それ以外の生徒たちには遠巻きに見られてしまう。

 だから彼女には、本当の友達と呼べる人が一人もいないのだ。


「(まあ、乗り気はしないけど)」


 そんな状態の、道明寺財閥を守っていくため。
 彼女は今日もまた、笑顔(、、)を振りまく。


「(大体の理由はそんな感じかな?)」


 他にもどうやら理由があるみたいですが。
 ……それはまた、別の機会に致しましょう。