「実は俺、ちょっと自分の中で賭けをしてたんだ」
「? どういうこと?」
一体何を賭けられていたのか。
「例のあの、アオイちゃんが最後変態になった動画があるでしょ?」
「やめてくれ……っ」
あれは人生最大の汚点である。
できることなら、もう思い出したくはない。
「いやいや聞いて? まあその現場全員で見てたんだけど。俺はさ、ああ。この子も俺と一緒なのかなって思ったんだよ」
……ん? ちょっと待って?
今、聞き捨てならないことが。
「あ、あのー。今、全員……って、聞こえた気がしたんだけど」
「ん? そうだよ全員。言ってなかったっけ?」
聞いてないよおおおん……!
てっきりノリノリだった三人組だけかと思ってたのにっ!
「ごめんなさい取り乱しました続けてください(ぐすん)」
ここにきて、まだあの時知らなかったことが溢れてくるとは思いもしなかった。
「だ、大丈夫?(なんかまた違う意味で泣いてるんだけど……)まあそれでさ、この子も俺みたいに隠してるんじゃないかって思ったんだ。だってアオイちゃん………………ね?」
言葉を探したんだろうけど、どうやらダメだったようだ。
いいんだよ全然。変態だって言ってもらってっ。
「もし君が俺たちの前で、本当の君を見せてくれたなら。俺もね、出してみようかと思ったんだ。本当の俺を。……でもまさか、一本背負いして。く、くまのパ……(ぷっ)」
そうねー、クマのパンツねー。
そういえばそれも汚点じゃないか。
「まあ実は、こんなに早くに本当の君が見られるとは思わなかったから。驚いたけど、賭は俺の負けだった。だから少しずつ親睦会を通して、今度はこっちが、本当の俺を出そうかなって思ってたんだけど。あの時のアオイちゃん。いきなり怒るし、いきなり手出してくるし、終いには怒った理由を『プリンが美味しそうだったから』って、平気で嘘吐くしー」
ああ。だから彼は、怒ったし、悲しかったし、寂しかったのか。それは、こちらが悪い。
「そ、それはとても申し訳ないことを」
「でも、そのあとちゃんと謝ってくれたし? 怒ってもくれたし。だから、もうあの時のことは気にしないで? じゃないと俺が、ずっと引き摺っちゃうからー」
「う、うんっ。わかった!」
歩み寄ろうとしてくれたのに手を出した挙げ句、そんな嘘で誤魔化されたんじゃあ、彼だって怒りたくもなるし寂しくもなるはずだ。
「いろいろ言ったけど、そんな感じ。伝わったー?」
「うん。大丈夫だよ! 十分伝わった!」
本当、十分過ぎるほど。―――ありがとう。
「よかったー。じゃ、そろそろ帰ろっか」
そう言って、彼は自分の荷物を取りに行った。
急にいなくなった頬の温かさに少し……ほんの少しだけ、寂しさを感じた。



