彼がそう話していて気付く。
「(そっか。カナデくんは、わたしがツバサくんからそのことを聞いているの知らないんだった)」
これは黙っておいた方がよさそうだ。
「わざとダラダラして、相手に俺のことを知られないようにしてる。気付いてると思うけど、アオイちゃんの前ではもうしてないよ?」
そうだろうとは思っていたけど、こうしてきちんと言葉にしてもらえることは、すごく嬉しい。
「アオイちゃんをどうして怒ったのかってことなんだけど、それはちょっと表現が違うかもしれない。どちらかというと、悲しいとか。寂しいとかに近いかな」
「……悲しい?」
「アオイちゃんを生徒会に入れること。実はあんまりよく思ってなくて。みんなとはずっと前から一緒にいたから警戒なんかしなくていいし、気なんて遣わなくていいし。……居心地、よかったから」
なんとなく想像が付く。
だから、理事長と話をしたのだから。
「こんなことは今まで何回もあったけど、俺はずっと隠してた」
「え」
それは……それは、つらかったね。
警戒心が強い上、長時間ずっとだなんて。気が抜けるとこがないじゃないか。
「まあ俺がこんな奴ってみんなは知ってるから。だから、アオイちゃんがそんな顔しないで?」
どんな顔をしていたのか。そう思っていると、目の前から手がすっと伸びてくる。
気付けば頬が、彼の手によって包まれていた。
今日、何度も思ったことがある。いつの間にか、距離を詰められていたこと。ふと気付いた時には、隣に。背後にいて、驚いた。
でも、話を聞いてわかった。彼は、警戒しているからこそ人との距離を詰めてしまうんだ。だから、人のパーソナルスペースに入ってくるのが、きっと癖のようなものになっているんだろう。
「(あったかい……)」
けれど、人との距離の詰め方を、決して知らないわけじゃない。ゆっくりと頬を包み込んでくれた手は、触れただけですごく安心するものだった。
その手を振り払わず、目蓋を閉じると温かいものが顎先まで伝って落ちていく。
……そっか。また。泣いてたのか。
苦笑いしながら、彼が親指で拭ってくれた。



