「そういえばアオイちゃん。理事長の話長かったね」
目を閉じながら聞いてくるカナデに、葵もそのまま手を止めずに返す。
「うん。まあいろいろ話したんだけど、最終的にはオウリくんをよろしく頼まれた。本当、大好きなんだねーっ」
軽い口調で話す。顔にも目にも、そして手にも。動揺は出ていないはずだ。
「そうなんだね。あまりにも遅かったから俺心配してたんだよー」
いつの間にか開いていた瞳は、どうやら騙されてくれたみたいだった。以後気を付けよう。
「嘘ばっかり。わたし知ってるんだぞ? お楽しみ中じゃなかったか?」
「あ? やっぱり見てたんだー。アオイちゃんのエッチー」
「あんたには言われたくない」
あんな白昼堂々。よくできるもんだ。
「それはそうと……カナデくん。もしかして、わたしのこと待ってたの?」
あんなことをしていたが、恐らくこれは嘘ではないのだろう。
「うん。待ってた」
急に真剣な顔になったカナデは「ありがとうね」と、葵にお礼を言ってきた。
――ん? 何かしたっけ?
そう思っていると。
「怒ってくれたこと。まだちゃんとお礼言ってなかったから。だから、気付かせるために怒ってくれて、ありがとう」
そっか。あの時みんなから友達だって、仲間だって言われたことが嬉しくて。頭からすっぽり押し出していた。アハハ。
「でもそれは……こっちこそ、怒ってごめんね?」
「…………」
「(あれ違った? カナデくん、むすってしてる)」
あ。もしかして。
「どう……いたしまして?」
そう言うと、カナデは嬉しそうに笑ってくれた。
……言葉って、本当に難しい。その一言で、相手を喜ばせたり、逆に怒らせたりしてしまうのだから。



