すべてはあの花のために①


「そういえばアオイちゃん。理事長の話長かったね」


 目を閉じながら聞いてくるカナデに、葵もそのまま手を止めずに返す。


「うん。まあいろいろ話したんだけど、最終的にはオウリくんをよろしく頼まれた。本当、大好きなんだねーっ」


 軽い口調で話す。顔にも目にも、そして手にも。動揺は出ていないはずだ。


「そうなんだね。あまりにも遅かったから俺心配してたんだよー」


 いつの間にか開いていた瞳は、どうやら騙されてくれたみたいだった。以後気を付けよう。


「嘘ばっかり。わたし知ってるんだぞ? お楽しみ中じゃなかったか?」

「あ? やっぱり見てたんだー。アオイちゃんのエッチー」

「あんたには言われたくない」


 あんな白昼堂々。よくできるもんだ。


「それはそうと……カナデくん。もしかして、わたしのこと待ってたの?」


 あんなことをしていたが、恐らくこれは嘘ではないのだろう。


「うん。待ってた」


 急に真剣な顔になったカナデは「ありがとうね」と、葵にお礼を言ってきた。


 ――ん? 何かしたっけ?
 そう思っていると。


「怒ってくれたこと。まだちゃんとお礼言ってなかったから。だから、気付かせるために怒ってくれて、ありがとう」


 そっか。あの時みんなから友達だって、仲間だって言われたことが嬉しくて。頭からすっぽり押し出していた。アハハ。


「でもそれは……こっちこそ、怒ってごめんね?」

「…………」

「(あれ違った? カナデくん、むすってしてる)」


 あ。もしかして。


「どう……いたしまして?」


 そう言うと、カナデは嬉しそうに笑ってくれた。

 ……言葉って、本当に難しい。その一言で、相手を喜ばせたり、逆に怒らせたりしてしまうのだから。