すべてはあの花のために①


 ――――誰もいなくなった理事長室。一応人の気配を確認し、誰も知らないであろう隠し扉へと、ゆっくり足を進める。
 大量のお菓子は入ってない。それとは別の、もう一つの隠し扉。

 そこを静かに開けると、その中にあったのは小さめの金庫。それをゆっくりと取り出し、机の上へ。
 ジリジリジリと、何度かダイヤルを回すと、その金庫は静かに音を立てた。


「――――……」


 出てきたのは、鮮やかに細部まで花の装飾が施された木箱。理事長は首から提げていた小さな鍵で、その箱を開けた。


 そこには――――九つに仕切られたそこには、八種類の花が、綺麗に大事に丁寧に収められていた。
 それはもしや、プリザーブドフラワーだろうか。綺麗な色鮮やかさを保ったまま、静かにその時を待っていた。


「…………」


 その中心へ。壊れてしまわないよう。両手でそっと、新しい花を収めた。


「――――」


 一体何を考えているのだろうか。彼は、じっと中の花を見つめている。



「恐らく最初は……」


 そう言葉を洩らしながら、彼が触れたのは――牡丹の花。


 そして次に、彼は木箱をなぞりながら。



「それには、お前が必要だな。……頼んだぞ。あの子のヒーロー」


 そう言いながら触れたのは――……菊の花。


 * * *


 ――同時刻。


「――……え。ちょっと待って! それってどういう」

『――……。――――……』


 相手の声は、上手く聞き取れない。


「だって、それはまだだって言ってたじゃない!」

『――――……――。……――』


 電話相手と言い争う声が、しんと静まり返る部屋に響き渡る。


「――は!? っ、ちょっと待って! まだ話は」

『――――』