すべてはあの花のために①


「…………」

「どうかな菊。もし何かあれば、その時はぼくの願いを叶えてくれるかな」


 彼女のような疑問系では聞かない。その分彼にも、少しだけ背負ってもらうようになってしまうけれど。


「お前しかいないんだ。頼むよ」


 そう言ってからすぐだったか。もう少し経った後だったか。


「はあああああー……」


 すっごい大きなため息吐かれた。
 えー……。そんなに嫌だったのー……。


「当たり前だ。今までの分も一緒に背負ってやるよ」


 ――え! 何この子!
 普段クソが付くほどダラダラしてるのに! めちゃくちゃイケメンなんですけど!


「クソは余計だ」


 おっと、ぼくも声が洩れてたらしい。気を付けなくっちゃ。


「いやー! いつの間にそんなにイケメンになっちゃったんだよ! 惚れちゃいそ――」

「おーい。今すぐその口縫い付けられたいか? 鼻ん中にもこのタバコ突っ込んでやろうか?」

「まだ天に召されたくないのでやめてっ」


 もうっ! そんなに照れなくてもいいのにっ!
 ……けれど、本当に彼の成長は嬉しい。そして頼もしい。素直にそう思うよ。



「それじゃあよろしく頼むよ、ぼくのヒーロー?」


 そう、おちゃらけて言っただけなのに。


「オレは今も昔もあいつだけのヒーローだ。あんたなんてお断りだよ」


 さらっとそんな格好いい台詞を言い放った彼は、煙草の火を消してダラダラと片手を振りながら、理事長室を出て行った。


 いや、お前本気でイケメンだよ。マジで惚れちゃいそうだよ。
 ……でも、そっか。



「(お前はやっぱり――……)」


 知ってるか、菊。
 この願いにはちゃんと、お前のことも入ってるんだからな。