「…………」
「どうかな菊。もし何かあれば、その時はぼくの願いを叶えてくれるかな」
彼女のような疑問系では聞かない。その分彼にも、少しだけ背負ってもらうようになってしまうけれど。
「お前しかいないんだ。頼むよ」
そう言ってからすぐだったか。もう少し経った後だったか。
「はあああああー……」
すっごい大きなため息吐かれた。
えー……。そんなに嫌だったのー……。
「当たり前だ。今までの分も一緒に背負ってやるよ」
――え! 何この子!
普段クソが付くほどダラダラしてるのに! めちゃくちゃイケメンなんですけど!
「クソは余計だ」
おっと、ぼくも声が洩れてたらしい。気を付けなくっちゃ。
「いやー! いつの間にそんなにイケメンになっちゃったんだよ! 惚れちゃいそ――」
「おーい。今すぐその口縫い付けられたいか? 鼻ん中にもこのタバコ突っ込んでやろうか?」
「まだ天に召されたくないのでやめてっ」
もうっ! そんなに照れなくてもいいのにっ!
……けれど、本当に彼の成長は嬉しい。そして頼もしい。素直にそう思うよ。
「それじゃあよろしく頼むよ、ぼくのヒーロー?」
そう、おちゃらけて言っただけなのに。
「オレは今も昔もあいつだけのヒーローだ。あんたなんてお断りだよ」
さらっとそんな格好いい台詞を言い放った彼は、煙草の火を消してダラダラと片手を振りながら、理事長室を出て行った。
いや、お前本気でイケメンだよ。マジで惚れちゃいそうだよ。
……でも、そっか。
「(お前はやっぱり――……)」
知ってるか、菊。
この願いにはちゃんと、お前のことも入ってるんだからな。



