すべてはあの花のために①


 彼女が退出した後。


「(それが、君が出した“願い”なんだね)」


 なんて君は、悲しい選択をするんだろうか。
 そんなに何の迷いもなく堂々とされてしまっては、何も言えなくなってしまうじゃないか。

 知っているかい?
 ぼくの願いにはね、道明寺葵さん。君のことも入ってるんだよ。


「(……ねえ――さん。ぼくの【  】は、間違っているのかな)」


 けれど、やれることはやってやろう。ただの自己満足だと、思われるかもしれない。
 例えそうだとしても。それでも、ぼくを彼らを。そして――君を。……信じるよ。



「ミノルさん……」


 菊は、つらそうに息を吐き出した。
 もしかしたらぼくも今、そんな顔をしているのだろうか。


「菊には、そんな顔させたくなかったのにな~」


 と言いつつも。最初からここにいた彼に彼女との話を聞かせていたんだ。ぼくは、最低だよ。


「別に、オレはこの話を聞いてつらくなったわけじゃない。確かに、これはとてもつらいことだ。……でも」


 一度言葉を飲み込んで。それから改めて言葉を紡ぎ始めた彼は、今度は少し怒っているようだった。


「あんたが、こんな苦しいことを一人で抱えていること。ずっと悩んでいたこと。どうにかしようとしてたこと。そんなあんたを、今まで知らずにナーナーと生きていた自分に今、尋常じゃないほど腹が立ってる」


 滅多に感情を表に出さないけれど、今回に限っては本当に怒っているようだった。

 あの菊が、まさかそんなことを考えるようになるなんて。時間の経過とは、本当にあっという間らしい。
 歳もとるはずだ。こんなにも涙腺が弱くなっているんだから。


「けれど、菊は知っていた側の人間だろう? わかっていて、それでもできなかったんだ。自分を責めてはダメだよ」

「ああ。それ(、、)については、オレは自分を責めなかった。だから、こうしてだらだら生きてこれたんだ。あんたと違って。……なあ教えてくれよ。あんたがそうなってるのは、“最初っから”なんだろ?」


 そこまで、わかるようになってしまったか。成長したもんだ。

 でも、言葉は何も発さない。ただ、彼を見て笑うだけ。
 いや、上手く笑えていないかもしれない。


 でも今の彼になら、願いが叶えられるかもしれない。
 彼女に言った同じものと、言い方を変えて。



「菊」


 彼にも、その願いを伝えておこう。