彼女が退出した後。
「(それが、君が出した“願い”なんだね)」
なんて君は、悲しい選択をするんだろうか。
そんなに何の迷いもなく堂々とされてしまっては、何も言えなくなってしまうじゃないか。
知っているかい?
ぼくの願いにはね、道明寺葵さん。君のことも入ってるんだよ。
「(……ねえ――さん。ぼくの【 】は、間違っているのかな)」
けれど、やれることはやってやろう。ただの自己満足だと、思われるかもしれない。
例えそうだとしても。それでも、ぼくを彼らを。そして――君を。……信じるよ。
「ミノルさん……」
菊は、つらそうに息を吐き出した。
もしかしたらぼくも今、そんな顔をしているのだろうか。
「菊には、そんな顔させたくなかったのにな~」
と言いつつも。最初からここにいた彼に彼女との話を聞かせていたんだ。ぼくは、最低だよ。
「別に、オレはこの話を聞いてつらくなったわけじゃない。確かに、これはとてもつらいことだ。……でも」
一度言葉を飲み込んで。それから改めて言葉を紡ぎ始めた彼は、今度は少し怒っているようだった。
「あんたが、こんな苦しいことを一人で抱えていること。ずっと悩んでいたこと。どうにかしようとしてたこと。そんなあんたを、今まで知らずにナーナーと生きていた自分に今、尋常じゃないほど腹が立ってる」
滅多に感情を表に出さないけれど、今回に限っては本当に怒っているようだった。
あの菊が、まさかそんなことを考えるようになるなんて。時間の経過とは、本当にあっという間らしい。
歳もとるはずだ。こんなにも涙腺が弱くなっているんだから。
「けれど、菊は知っていた側の人間だろう? わかっていて、それでもできなかったんだ。自分を責めてはダメだよ」
「ああ。それについては、オレは自分を責めなかった。だから、こうしてだらだら生きてこれたんだ。あんたと違って。……なあ教えてくれよ。あんたがそうなってるのは、“最初っから”なんだろ?」
そこまで、わかるようになってしまったか。成長したもんだ。
でも、言葉は何も発さない。ただ、彼を見て笑うだけ。
いや、上手く笑えていないかもしれない。
でも今の彼になら、願いが叶えられるかもしれない。
彼女に言った同じものと、言い方を変えて。
「菊」
彼にも、その願いを伝えておこう。



