「それから」
他に何があるのだろうか。彼女はまだ話を続ける。
「朝倉先生? 先生も、最初から口を挟まずにじっと話を聞いていてくださってありがとうございます」
彼女はすでに柱の方へと目を向けている。
悪びれる気はないのか。彼は堂々と柱の陰から出てきた。
「いつから気付いてた」
彼女はその問いには答えなかった。
菊に目線を合わせたまま、ただにっこりと笑うだけ。
「(……最初から、か……)」
同じことを思ったのだろう。菊は渋い顔を浮かべている。
彼は二重の意味を込めて、そう聞いたのだ。
いつから、親睦会の時の話を。
そしていつから、今の話を聞いていたことを知っていたのか、と。
「どうして、最初からいるって気付いた」
あ。それは――――
「? 朝倉先生の周りにはビールの空き缶がたくさんあったので。そうかなって思ったんですけど、やっぱり最初から聞いてたんですね~! 恥ずかしいっ!」
あちゃー。やっぱり逃げられたか。
もう彼女は、この話をするつもりはないらしい。
これは完敗。彼女の方が何枚も、何十枚も上手だ。



