理事長としての仮面も、そろそろ限界が近いようだ。
「それでは道明寺さん。君はそこまでわかっていて、何故ここまで来たのかな」
剥がれ落ちてしまう前に、彼女にきちんと伝えきらないといけない。
「それは……」
彼女は一瞬躊躇った後。
「海棠実さん。あなたの願いを聞きに」
真っ直ぐな瞳で彼女は、他でもない私自身に、そう言葉を投げかけてきた。
……ああ。なんだ。もう、そんなところまでお見通しか。
それならもうこの仮面は、君の前でも必要はないね。
「それじゃあ言おう。道明寺葵さん。ぼくの願いはたった一つだ」
そして、白く儚く、とても美しい彼女にぼくは、たった一つの願いを託した。
「…………」
「どうかな? 君にできるかな」
彼女は閉じていた目を開いて、その目でこちらを射止めてくる。その瞳からは、凄まじいほどの強い意志が伝わってきた。
「もっちのろんです!!」
(※訳→もちろんです!)
おっと素だ。びくりしたあー。
さっきのシリアスな雰囲気返してー……。
「な、なんたってわたしは彼らのお友達で仲間で……」
うんうん。嬉しそうだね、よかっ――
「生徒会庶務で雑用係で、変人で変態の下僕ですから!」
うん、う……ん?
え。みんなにそこまで言われたの?
そんなに酷いこと言われてるのに生徒会に残ってくれるなんて……一体どんな説得を受けたんだい。そんなこと、そんなドヤ顔で言わないでおくれ。
「そ、それじゃあ、あおいちゃん? よろしく頼むね?」
きっと、彼女なら大丈夫だ。
だ、だいじょうぶな……はずっ。
「(あおいちゃん!)はい! まっかせてくださいな理事長!」
口調はふざけているけれど……そう言った彼女の笑顔はとても、綺麗だった。
「(これは……)」
先程カメラに収めた写真を思い出す。
「(……間近でこれを見せられたとなると、みんな絶対これから仕事どころじゃなくなるね)」
そんなことを思っていたら彼女が。
「そういえば理事長、さっきは助けていただいてありがとうございました! あの空気を戻すことまで考えていなかったので、理事長登場に救われたんです」
なんて律儀にお礼を言うもんだから、外で盗み聞きしてたことを謝罪させてもらうことすらできやしない。
本当に、この子はよく見えている。
だからわざと、こちらの謝罪は聞かないことにしたんだな。
いやあ。彼女だけは敵にはまわしたくないね、絶対。



