すべてはあの花のために①


 両手を口元へと持ってきた葵も、だんだんとわかってきたようだ。彼女の表情が、嬉しさを喜びを、噛みしめるような表情へと変わり始める。


「だからな? ……? ……っ」


 先を続けようとしたチカゼが何かに気付いたようで、袖で葵の目元をゴシゴシ拭き始める。


「(え? わたし、泣いて……?)」


 それまで泣いているのに気付かなかった葵に、にかっとお得意の笑顔が飛んでくる。


「ツバサがお前を抱き締めたのは、お前が近付いてオレらと友達になろうとしてたから」

「……ちかくん」

「だから、お前に近付いてもう友達だろ? って。ただわかってもらいたかったんだ。お前はもう、とっくにオレらと友達なんだ、ってさ。……別に、気付くのが遅過ぎたからって、寂しいとかそんなこと全然思ってねーから」


 その言葉を聞いた葵は、とうとう本格的に泣き出してしまった。



「(ツンデレありがどうございまあーずっ!)」

((いやいや、あんた泣きながらそんなこと思ってるの? それ聞いたらみんな今度は友達やめるわー))

「(やめます)」

((ええ、そうして是非))


 脳内にそう返事をして、こほんと咳払いで改めた葵は、まずはオウリとアカネの方を向いた。


「じゃ、じゃあオウリくんが抱き付いてきて、怒ってるのに可愛いのは?」

「うん! もう友達だからだよ!(なんか違うけど)」

「(コクコク!)」

「……その、アカネくんも?」

「もちろんだよあおいチャンっ」


 アカネがオウリの分まできちんと答えてくれて、そして教えてくれた。


「キサちゃんも……?」

「もちろん! あっちゃんっ」


 言いながら葵に抱き付いてきたが、勢いがよすぎてオウリを潰してしまった。


「痛たた。……か、カナデくんも?」

「そうだよー。おでこ痛いけど、友達だから許すよーアオイちゃん」


 潰れたオウリを助け起こしながら文句を言ってるけど、その顔はもう本当の笑顔だ。


「チカくん、おでこ大丈夫? ごめんね?」

「そんなん気にすんな。だって友達だろ?」


 相変わらず素敵すぎる笑顔で答えてくれたチカゼ。
 まあやっぱりまだ痛いのか、それとも思い出してしまったのか。おでこはさすっていたけれど。


「九条おと――(ひっ!)……ひ、ヒナタくんも……?」

「さあ。そうなんじゃないの」


 九条弟って言いかけたらめっちゃ睨まれたー!
 でも確かに、友達ならちゃんと名前で呼ばなきゃだよね。今までごめんよー……。


「ツバサくん。気付くの遅くなってごめん。抱き締めてくれてまで教えてくれて。どうもありがとっ!」

「……どういたしまして(もう、あんまり抱き締めた抱き締めた言わないでよ。いろんなとこから視線がビシバシ飛んでくるんだけどっ)」


 目線は合わなかったけど、ツバサもそう答えてくれた。
 その横顔は、少し赤くなってるような気がしなくもない。


 最後に。


「アキラくん。アキラくんとも、わたしは友達?」


 葵は不安になりながらもアキラに聞いてみた。何せ奴は、本当に何を考えているかわからな――――