すべてはあの花のために①


 葵が動揺している中、そんなことがされたなんて気付いてもいない他の面々はというと。


「「俺(オレ)は絶対にこいつの前では倒れない」」

「アキくんとチカに同じ」

「お、おれも……ちょっと。おうりもそう?」

「(コクコク!)」

「あたし(アタシ)が倒れても安心ね」」

「運んでもらいたあい!」

「オレの教材運んでもらおっかな~」


 みたいなことをバラバラに思ってはいるが、


『でも、このことは黙っておこう』


 カナデのプライドを守るため、そこは一致団結するのだった。



「(い、今っ。み、みみに。耳にぃ……!)」


 そんな動揺しているところに、さっき実は助けようとしてくれていたツバサがやってきた。


「あーあ。本当に熟睡しちゃってるわね。お酒弱いのになんで好んで飲むのかしらこの子は」


 本当に感心しているのだろう。そんな声を出してはいるが、気持ちよさそうに眠るカナデのほっぺたをつんつんしていた。いや、確かにしたくなる気持ちはわからんでもないけどさ。


「(やっぱりあれはお酒だったのか……!)」


 衝撃の事実に驚いている葵の横で、ちょっと嬉しそうにツバサはカナデを横目に語り出す。


「ああやってヘラヘラしてても、実は臆病なの。すごく警戒心が強いのよ。だから、気許してない人の前では絶対素にはならなかったし、ましてや寝ちゃったりもしなかったのに」


 そう言い終わったツバサの目蓋は閉じられており、いつの間にか寂しそうな表情へと変わっている。


「……そっか」


 そうなんだ。彼の言う通り、いつもぬた~とした話し方でヘラヘラとしているのに、カナデの瞳は、本当の意味で笑ってはいなかった。

 それでも。


「アンタを生徒会に入れること。多分あんまりよく思ってなかったんだと思うの。なのに今、こうしてアンタの前でぐっすり眠ってるってことは信用したってことなんでしょうね。だから、悪く思わないであげて」


 ツバサの横で静かに寝息を立てているその顔は、少しだけ嬉しそうだ。彼の頭を、やさしくツバサが撫でている。それに。


「(……さっき、キスされた時は、いつもとは違う本当の笑顔だったと……思う)」


 葵の前でも、本当の笑顔を見せてくれたのだ。
 これは、葵にとっても大きな前進だった。