すべてはあの花のために①


 そんなこんなで、ここ()。賑やかでごちゃっとして忘れがちだが、この辺りの地域では所謂『お金持ち学校』と、呼ばれることも少なくない。


「あ! 道明寺さんだあ」

「あ、本当。……やっぱり大手企業の社長令嬢は、いつ見ても品があって、如何にもお金持ちです感が滲み出てるわ」


 ――そして。この作品のヒロインという大役に抜擢されてしまった彼女。名前は、道明寺 葵(どうみょうじ あおい)


「えー? でも、道明寺さん、気さくで話しやすくない?」

「まあ、ウチら一般庶民とも普通に話してくれるような生徒は桜にはわりと多いけど」

「そのうちの一人だよねー! 道明寺さんっ」

「そうそう。あ、道明寺さん。おはよう」

「お二人とも、おはようございます」


 実はこの子、ここら辺では有名な、道明寺財閥のご令嬢だったりするんです。



「いやー、いつ見ても美人だねえ」

「それに常に成績上位、運動神経も抜群、礼儀作法なんかもバッチリで、常に堂々としていらっしゃる。……女から見ても、すごい魅力的だわ」


 しかし、そんなことを言われている葵の胸の内はというとだ。


「(まあね。ここまでくるのには、そりゃ苦労したもんさー)」



「あたしも、あんな女性になれるように頑張らないとっ! そしてできればいろんな話がしてみたい!」

「いやあんたには無理だわ。それに挨拶ぐらいはできるけど、ウチらには遠巻きに見てることしかできないし」



「(…いや。いやいやいやっ! 全然っ! 寧ろどんどん話しかけちゃっていいんだよ?! ウェルカムだよ?! 寧ろ話しかけて欲しいんだよおおぉ……)」



「うん。あんまりウチら庶民と関わって、道明寺さんの評判落としちゃったりとかしたくないしね」

「常にあの人の周りには、お金持ちの人たちがいるから。しょうがないしょうがない。さ、早くクラス発表見に行くよ」

「あ! ちょっと待ってよー!」



「(嗚呼……。せっかくの話す機会を失ってしまった……)」


 友達と呼べる人が一人もいないことで、深く深く悩んでたりするのである。