「呼ばれて飛び出てじゃんじゃかじゃあああん!!」
「――!?!?!?」
シリアスな空間をぶっ壊してくれちゃったのは、皆さんおわかりだろう。理事長である。
みんな、あの空気に呑まれていたせいで、今じゃ何が起こったのかビックリしすぎて挙動不審。
まあ、よかったっちゃよかったか。この空気を戻すことまでは、考えていなかったし。
「(ありがとうございます、理事長っ)」
葵はくすりと笑いながら、心から彼に感謝を伝えておいた。
「(そういえば、朝倉先生は?)」
きょろきょろと辺りを見回すと、端っこの方で一人ビールを飲んでいる。
ちょっとちょっと、そこの人。あなた今仕事中やぞ。
しかもいつからそこにいたんだ。空き缶何個も並べてあるやんけー……。
「(朝倉菊、侮れん)」
葵の要注意人物にキクの名前が、ちゃっかり加わった。
「みんな~しっかり食べてる~? 親睦深めてるう~?」
妙にテンションが高い理事長は、チカゼの肩を組みながら、腹が立つくらい絡んでくる。
「(おいおい、なんか足取り覚束ないんですけど。まさか、あなたも出来上がってるんじゃないだろうな?)」
そんなことを思っていた時。
「り、りじちょー」
理事長に肩を組まれたチカゼが、ゆっくり口を開く。
「あ、あのさ。えーっと……」
少し照れくさそうにしながら言葉を紡ごうとするも、上手く出てこないみたいだ。
助けを求めるように、彼の視線がわずかに葵を捜す。
「(大丈夫だよ。ゆっくり。少しずつ伝えればいいんだ)」
安心して話し出せるように。葵はただ、静かに微笑みながら頷いた。
その一瞬。少しだけ彼が目を見開いたように感じたけれど、そんな遣り取りをしている最中も、理事長はにっこり笑いながら彼の言葉を待っていた。
「……その。あ、ありがとな」
恥ずかし混じりの小さな声。けれどそれは、静か過ぎる部屋には、十分大きな声。
その一言を聞いた理事長は、本当に嬉しそうな笑みを零していた。
「ご馳走、たくさん準備してくれてありがと。すんげーウマい!」
にかっと笑うその顔は、やっぱり少し照れくさそうだった。
「りじちょう先生も一緒に食べよお! もちろんきくチャン先生もね」
アカネはキクのしわくちゃの白衣を引っ張って、みんなが集まるところへと連れてくる。
「おーおー、そんな引っ張るなよ~」
そんなことを言う眼鏡の向こうは、やっぱり少し嬉しそうだ。
「(よかった。ちゃんと届いて)」
そんな様子を見ながら葵は、ほっと息をつこうとした。
「……ごめんはこっちの方だ」
息を吐こうとしたその時。目の前からとても小さな声で、そう聞こえた。



