みんなは、黙って視線を葵から外していく。そうするということは、何かしら思うところがあったんだろう。
「(きっと……そうだな)」
仮面を着けている姿を頭に浮かべている。そんな気がする。
「こんなに素で話せるような人たちが家族以外にいないから。まだ、距離感が掴めないんだ」
それは葵自身のこと。そのせいで葵は、二人に手を出してしまったのだから。
「それに、そんな人たちと集まって何かをするなんて今までやったことないし。どうすればいいのかもわからなかった。……でも」
――そして、もう一枚。
「心を許している人に、そんな接し方しちゃいけないと思うんだ。だからわたしは、みんなに……怒ってる」
これはみんなが気付かないといけない。葵はこれ以上先へは行けない。
「(気付け。……気付けっ)」
思いが届くように。葵はひとりずつ見つめていく。
ひとりずつ。ひとりずつ。
まるで芽が出るように、ゆっくりと顔を上げていく。
まだ顔を上げられないチカゼに、初めはやわらかい声で。そして最後は、ハッキリと伝えてあげる。
「チカくん、単純なことなんだ。親しき仲にも礼儀ありって、言うでしょ?」
届け。
「本当は忙しいのに、こんなにたくさんのご馳走を準備してくれたのは、誰かな?」
届け。
「一人一人の好みを、ちゃんと覚えてたのは誰?」
届け。
「マ○カやってたって嘘ついてまでみんなに喜んで欲しくて準備していたのは、一体誰だったでしょう」
はっと顔を上げたチカゼは、申し訳なさそうにしていた。
「(大丈夫。まだ間に合うよ)」
ここからまた、始めればいいんだから。
掴まれていた胸元の手は、だいぶ前からなくなっていた。
「(よかった。みんな気付いてくれたみたいだ)」
きっとみんなは、元からいろんなことに目が向けられる。そして自分なんかよりずっとずっと、優しい人たちなんだ。
だから気付ける。きっかけに過ぎない言葉で、ちゃんと気付いてくれる。
「(近過ぎて見えないのは、もうやめにしよう)」
これでもう安心だろうと思っていた。その時だった。



