「ちょっと? あと大事な一人の紹介が終わってないんだから、ゴリラになるのは後にしてくれるかしら?」
なってないからというツッコミすら、もう疲れ果ててできなかった。
というか、もう済んだものとばかり思ってたからふざけてたんだけど。葵は取り敢えず話を聞く姿勢をとる。
「最後に、この無駄に綺麗な顔をしてるのが、アンタもよく知ってるであろう 皇 秋蘭、高2。見てわかったと思うけど、超が付くほどの甘党なの。普段ぼーっとしてるくせに甘いもん出したらよく喋るし、いろんな顔するからそれを観察してるの」
「久し振りにいじったけど、楽しかったわ」なんて言ってるけどさ。結局それって、観察目的ではなくただの虐めなんじゃ……。
「え」
ほら。彼だって戸惑ってるし――。
「そうだったのか。じゃあ、これ食べたら話せる――――んんんっーん?」
あのくそデッカい飴が口に入っただと?! ……ふむ。そうやって入れるのか。
っていやいや!
入れたら話せないの、普通に考えたらわかるでしょ!? 『なんで?』みたいな可愛い顔しないでー……!
「(普段ボケ担当だから。そろそろツッコミ疲れた……)」
((まだ始まったばかりだから頑張って))
「(シクシク……)」
最後に彼ーアキラは、先程ツバサが言ってたが、本当にその通りの美貌だった。無駄に綺麗過ぎて作り物かと思うほどだ。
背はツバサより少し低いか。さらさらの黒髪で、そこから見える左耳にはプレーンなロングタイプのイヤーカフ。彼が動くたび鈍く銀色に輝く様は、まるで何かに縛られているかのようだった。
そして銀に近い、灰色の瞳。その瞳に捕らわれたら最後、どこまでも落ちていく気さえする。
「ちなみにこの飴は理事長の机の引き出しに常備している」
今!? 今その情報いらないわー……。
と、とりあえず。
なんとなくだが、みんながどんな人物かわかった葵は最後に。
「(……落ちていくって、さっきのが落ちでいいのかな?)」
本当、どうでもいいことを気にしていたのだった。



