すべてはあの花のために①


「ん~~っ!」


 ……なんか、頑張っていらっしゃる。
 頑張って爪先立ちして片手を伸ばしたり、思いっきりジャンプしているが、あとちょっとのところで棚の上の箱に手が届かないみたい。


「す、めらぎ、くん? 一体何を――」


 しているのか聞こうとしたら。


「ゴリラのマーチが取れないっ!」

「!? ごっ……」


 ゴリラのマーチだと!?

 え? 何あの人。どうしちゃったの?



「ぎゃあははは! あの顔でゴリラのマーチとか!! やっばい! やっぱりウケるんですけど!」

「(むう)」


 いやいやいや! そんなムスッとしなくても!


「あの。椅子……使ったらどうですか?」

「!」


 まるで『そうか! その手があったか!』みたいな顔して、両手を合わせた後、その彼は嬉しそうな顔をして椅子を取りに行ったが。


「はやくっはやくっ」


 一番背の高いツバサは、カナデを軽々と担いで先に獲物をゲット。棚の後ろの壁を軽く押して現れた物置に、その獲物を隠してしまった。


「(隠し扉的なやつですか!? それにもビックリだけど……)」


 ちらっと見えたのは、恐ろしいほど大量のお菓子の山。……うん、見なかったことにしよう。


「(か、観察というか、いじめというか、いじりというか、何というか……)」


 案の定、何も知らない皇くんはというとだ。


「――! ……。ない……」


 驚いた後、ションボリしちゃったよ。
 椅子に上がる前に気付けたらよかったね。せっかくキラキラした目で嬉しそうに帰ってきたのにね。

 すごく彼が不憫に思えた。



「まあ、大体こんな感じね」


 どや顔で言ってのけるツバサ。
 うん。あなたも敵にまわさない。確かに流れてるわ、同じ血が。



「こんな感じで、昔はよくいじってたのよ」

「いやいや! いじるって言っちゃってるし! 観察どこ行った?! ていうかやめてあげてくださいよ! 見てください! 皇くん、めっちゃ悲しそうな顔してます、よ……?」


 そう言いながら皇くんの方を向いたら。


「ん?」


 なんか咥えてるしー。


「す、すめらぎくん? それはどこから……?」

「んんっーん、んんん~っん」


 いや、何言ってるのかわかんないし。

 でも嬉しいんだね~。それはわかるわ~。よかったね~。


 葵にきちんと伝わってないことに気付いたのか、皇くんは咥えているいる棒を取り出し――――



「じゅぽっ!」


 え? デカくね??
 どうやったらそれ、口ん中に入るのー……。

 出てきたのは、皇くんの顔ぐらいある、トグロを巻いたピンクと白の飴。


 葵は頭を抱えた。抱えるしかなかった。