すべてはあの花のために①


「(めっちゃくそ可愛いぃいいい!)」


 九条兄の話に、怒っているのか照れているのか。ぷく~っと膨らませた頬には赤みが差し。大きな目元からは、今すぐにでも涙がぽろっと落ちるんじゃないかと思うほど、瞳を潤ませているオウリ少年の姿が、そこにあった。


 覗いていたのがバレたのか。九条兄を睨んでいたオウリは、はっ! とこちらに気付いて上目遣いでゆっくりと見上げてきたけれど……。
 視線が絡むと、慌ててまた視線を九条兄へ戻すその顔が、さっきよりも赤くなっているような気がして。



「……じゅるっ」


 可愛いものに目がない葵は、思いっきりそれをガン見してヨダレを存分に垂らしていた。


「おい、やべーよヒナタ。あいつニヤニヤしながらヨダレ垂らしてるぞ」

「ああ。やっぱり変態だね」


 どうやらもう、変態サンに成り下がってしまったようだ。


「(にしても、変態の下僕って……)」


 割と最低な扱いに、葵はちょびっと本気で泣いた。



「オウリの件は解決したかな~? じゃあ続いて俺ね~」


 心で涙を流していたら、のんびりとした様子で東條くんがゆっくりと話し始めた。


東條 圭撫(とうじょう かなで)、アオイちゃんと同じ高2。好きなものは女の子で、趣味はエロ本とかAV見ることなんだけど、アオイちゃんが変態ってわかったし。これからいろいろ楽しくなりそうだね〜」

「(なんかとんでもないことをさらっと言ってませんかこの人!?)」


 そんな途轍もないことを世間話のように言っているカナデ。
 髪色は真っ白にも見えるほど色素が薄く、気怠げに制服を着崩し、今日はその上からグレーのカーディガンを羽織っていた。

 身長は170以上はあるだろうか。長い首筋から開けた胸元に、ネックレスのチェーンが見えた。


 それにしても……。


「(なんか溢れ出てるから! エロい何かが!)」


 その無駄に溢れる色気を、どうか今すぐ収めて欲しいと思った。
 同時に分けて欲しいとも思った。


「ま、圭撫は手が早いから気を付けなねー」


 しかもキサが、さらっとぶっ込んでくる始末。
 ……ヤバい。やっぱりやっていける気がしない。



「もう! 自己紹介だけでどうしてこんなに時間かかってるの! さっさと次行くわよ!」


 すみません。九条兄。
 原因は間違いなく葵であろう。脱線したからね。申し訳ない。


九条 翼(くじょう つばさ)、アンタと同じ高2。趣味は……まあこんな恰好だし。可愛いものとか集めたりとか? カナと一緒にアキの観察をするのが楽しかったけど、そういえば最近ご無沙汰だわね」


 そんなオカマ口調で話す九条兄ことツバサは、そりゃもうね、めちゃくちゃ美人なのですよ!
 モデルさんかと思うくらいスラッとしていて、180は余裕であるんじゃなかろうか。この中では断トツで背が高い。

 胸元まであるさらさらの黒髪ストレートに、左手の小指にはシルバーリング。左耳には、似合い過ぎるほど艶やかに光を放つパープルのピアスが二つついていた。
 ちなみに。女子の制服を着用しておられるので、足がすっごく綺麗に見えます。

 黒いブラウスのボタンを二、三個外し、リボンをだらんと首から提げ、今日はその上からクリーム色のカーディガンをお召しでいらっしゃいます。


「(わたしも、編入してきたばかりの頃は見間違えたっけ)」


 彼のことは今や学校中が周知しているはずだが、たまにそのことを知らないまたは信じたくない男子生徒から、告白されることもあると聞く。その男子生徒がどうなったのかまでは……よく知らない。というか、知りたくないかも。



「(はあ。それにしてもなんて濃いメンバーなんだ)」
(※↑自分のことは棚に上げている)


 それにしても観察って……そもそも何を観察するんだ? あの美貌か?
 そりゃ彼らが並んだら美男美女(?)だけども!

 そんな、どうでもいいことに疑問に思った葵は、観察対象に目を向けてみる。すると――――。