「えーっと。オウリくんって、最近わたしどこかで見かけたような気がするんですけど……」
「そうそう! そうなの!」
「やっと気付いたのかよっ」
「おっそ」
ウン。もう気にしナイ。
ガラスのハートはすでにズタボロだけど……っ。
「あのね道明寺さ、……う~んと、あっちゃんでいっか! さっき動画見せたでしょ? 変な人が不良をボコボコにするやつ。そこで絡まれてたのが桜李だよ」
「そうそう、変な技名言いながらボコってたやつー」
「変人が変な技名でボコった後、変態になる動画ね」
「わたしはまだ変態ではないから!」
あ。っと気付いたけれど、時すでに遅し。
「えー? 別にあっちゃんって言ってないのにね~」
「バッカだなーお前。しかもまだとか!」
「まあ最初っからこっちは知ってたけどね」
やってしまった。
パンツだけではなく、こちらの動画もばらまかれそうな勢いなんだけどっ。
「や、やっぱりそうだったんだね(見たような顔だと思ったけど、やっぱりあれがオウリくんだったのか。中学生だと思ってごめんよー……)」
……ん? ちょっと待てよ? て、ことは……?
嫌な予感をひしひしと感じながら、引き攣った顔で三人の方を振り向いてみる。
「そうそう。それでー、あたしたちもちょうどそこにいたから、もうあっちゃんがこの変な人だってことは知ってんだよね~」
「んで、ヤバい奴来たー! と思って~」
「面白いから動画に残しておいた」
「これはもうさ! やっぱりネットにあげるべきだと思の! ここだけで楽しんでたらいけない代物だもん!」
「いや! オレはこれを家宝にする!」
「桜の生徒会に代々受け継がれていけばいいと思う」
「やめてくれっ」
やっぱりみんな現場にいたのね。
「(それにしても……はあ。三人揃ったらロクでもないな。まさか自分がツッコミに回るとは思いもしなかった)」
いつもより、体力の消耗が激しい気がする。
嬉しいような、……悲しいような。
「てか、あんた今素だったけど」
「ほんとほんと! せっかく生徒会でこれから一年一緒に過ごすんだから、猫なんか被らせんぞー」
「そーそ。今からそんなだと疲れるぞ? ここでは普通に喋ってろよ」
「……え?」
そう言われて、初めて気付く。思わず、顔に手を当てた。
「(……う、そ……)」
気付かない間に、“仮面”が剥がれ落ちていたなんて。
今まで、家以外で素になれたのなんて初めてに近いのに。
(※不良の件は別)
「(嘘みたい……)」
こんなことをしていれば、不安が。恐怖が。胸を埋め尽くしてくるはずなのに。
なんでそれよりも。こんなにも胸が温かいんだろう。
「そっちの方が本当のアンタって感じで、アタシはイイと思うけど?」
黙っていた葵に会話を投げかけたのは、九条兄。
「それに、実はアンタに是非生徒会に入って欲しいって。一番思ってるのは桜李だったりするのよ?」
「まじっすか!?」
さっきから、変人とか変態として扱われているのに!?
そう思うが早いか、ひゅんっと効果音がつくくらい素早く、ピンク色の何かが葵の背中に隠れてくる。
背中が少し引っ張られている気がした。首を後ろに捻らせて覗いてみる。すると――……。



