すべてはあの花のために①


「えーっと。オウリくんって、最近わたしどこかで見かけたような気がするんですけど……」

「そうそう! そうなの!」

「やっと気付いたのかよっ」

「おっそ」


 ウン。もう気にしナイ。
 ガラスのハートはすでにズタボロだけど……っ。


「あのね道明寺さ、……う~んと、あっちゃんでいっか! さっき動画見せたでしょ? 変な人が不良をボコボコにするやつ。そこで絡まれてたのが桜李だよ」

「そうそう、変な技名言いながらボコってたやつー」

「変人が変な技名でボコった後、変態になる動画ね」

「わたしはまだ変態ではないから!」


 あ。っと気付いたけれど、時すでに遅し。


「えー? 別にあっちゃんって言ってないのにね~」

「バッカだなーお前。しかもまだ(、、)とか!」

「まあ最初っからこっちは知ってたけどね」


 やってしまった。
 パンツだけではなく、こちらの動画もばらまかれそうな勢いなんだけどっ。


「や、やっぱりそうだったんだね(見たような顔だと思ったけど、やっぱりあれがオウリくんだったのか。中学生だと思ってごめんよー……)」


 ……ん? ちょっと待てよ? て、ことは……?

 嫌な予感をひしひしと感じながら、引き攣った顔で三人の方を振り向いてみる。


「そうそう。それでー、あたしたちもちょうどそこにいたから、もうあっちゃんがこの変な人だってことは知ってんだよね~」

「んで、ヤバい奴来たー! と思って~」

「面白いから動画に残しておいた」

「これはもうさ! やっぱりネットにあげるべきだと思の! ここだけで楽しんでたらいけない代物だもん!」

「いや! オレはこれを家宝にする!」

「桜の生徒会に代々受け継がれていけばいいと思う」

「やめてくれっ」


 やっぱりみんな現場にいたのね。


「(それにしても……はあ。三人揃ったらロクでもないな。まさか自分がツッコミに回るとは思いもしなかった)」


 いつもより、体力の消耗が激しい気がする。
 嬉しいような、……悲しいような。



「てか、あんた今素だったけど」

「ほんとほんと! せっかく生徒会でこれから一年一緒に過ごすんだから、猫なんか被らせんぞー」

「そーそ。今からそんなだと疲れるぞ? ここでは普通に喋ってろよ」

「……え?」


 そう言われて、初めて気付く。思わず、顔に手を当てた。


「(……う、そ……)」


 気付かない間に、“仮面”が剥がれ落ちていたなんて。
 今まで、家以外で素になれたのなんて初めてに近いのに。
(※不良の件は別)


「(嘘みたい……)」


 こんなことをしていれば、不安が。恐怖が。胸を埋め尽くしてくるはずなのに。

 なんでそれよりも。こんなにも胸が温かいんだろう。



「そっちの方が本当のアンタって感じで、アタシはイイと思うけど?」


 黙っていた葵に会話を投げかけたのは、九条兄。


「それに、実はアンタに是非生徒会に入って欲しいって。一番思ってるのは桜李だったりするのよ?」

「まじっすか!?」


 さっきから、変人とか変態として扱われているのに!?

 そう思うが早いか、ひゅんっと効果音がつくくらい素早く、ピンク色の何かが葵の背中に隠れてくる。
 背中が少し引っ張られている気がした。首を後ろに捻らせて覗いてみる。すると――……。