すべてはあの花のために①


「クマさんのパンツは止めた方がいいと思うぞ」

「(〇×☆△□!?)」


 葵はもう、パニック状態に陥っていた。

 ……おかしいな。勝利したのは葵のはずなのに。
 何故か葵の方が、ものすごくぐったりしているように見えたのだった。



「へえ~アオイちゃん、クマさんのパンツなんだ。かっわい~」

「(いや、違うんです。クマのアップリケがついた毛糸のパンツなんです……)」


 やっぱり斜め上の突っ込みを入れたかった葵だったが、精神的ダメージを受け過ぎてすでに瀕死状態のため、それも不発に終わった。


「……うんっ。動画じゃなかったけど、連写でバッチリ顔とおパンツが写ってるよー」

「(なぁーにぃー?!)」


 杵も臼もなく、もう逃げられそうにもない葵は、四つん這いになってがっくりと項垂れた。それは、縦線の暗いオーラが、目に見えてわかるほどであった。


「それじゃあ、もう一度聞くね? この写真ばらまかれたくなかったらー」

「そんなのいちいち言わなくてよくない? そもそもあんたさ、この写真ばらまかれたい? ばらまかれたくないよね? てことで雑用係、ヤレ」


 桜庭さんの声に被さるように、九条弟が命令してくる。
 葵はこのムカつく言い方に、奥歯を噛みしめながら、悔しさ100%でなんとか言葉を出してやった。


「(……くっ)わ、わかり……ま、した」

「はあ? 聞こえないんだけど」


 完全に馬鹿にしてきたような口調と表情。

 でも耐えろっ。今は耐えるんだ。


「(くっそー。年下とはいえ、弱みを握られている以上盾突いたら何されるかわからな――)わかったって言っとんじゃい! こんの悪魔がああ!!」


 しかし、葵の我慢は失敗に終わった▼


「……へえ?」


 あ、と気付いた時にはもう、時すでに遅し。


「あんた、覚悟しときなよ」

「(ひえぇ……!)」


 九条弟に、悪魔のような牙と尻尾が生えたように見えた瞬間、絶対零度の風が、どこからともなく吹き荒れた。


「(や、……やっちまった)」


 後悔してももう遅い葵であった。