「クマさんのパンツは止めた方がいいと思うぞ」
「(〇×☆△□!?)」
葵はもう、パニック状態に陥っていた。
……おかしいな。勝利したのは葵のはずなのに。
何故か葵の方が、ものすごくぐったりしているように見えたのだった。
「へえ~アオイちゃん、クマさんのパンツなんだ。かっわい~」
「(いや、違うんです。クマのアップリケがついた毛糸のパンツなんです……)」
やっぱり斜め上の突っ込みを入れたかった葵だったが、精神的ダメージを受け過ぎてすでに瀕死状態のため、それも不発に終わった。
「……うんっ。動画じゃなかったけど、連写でバッチリ顔とおパンツが写ってるよー」
「(なぁーにぃー?!)」
杵も臼もなく、もう逃げられそうにもない葵は、四つん這いになってがっくりと項垂れた。それは、縦線の暗いオーラが、目に見えてわかるほどであった。
「それじゃあ、もう一度聞くね? この写真ばらまかれたくなかったらー」
「そんなのいちいち言わなくてよくない? そもそもあんたさ、この写真ばらまかれたい? ばらまかれたくないよね? てことで雑用係、ヤレ」
桜庭さんの声に被さるように、九条弟が命令してくる。
葵はこのムカつく言い方に、奥歯を噛みしめながら、悔しさ100%でなんとか言葉を出してやった。
「(……くっ)わ、わかり……ま、した」
「はあ? 聞こえないんだけど」
完全に馬鹿にしてきたような口調と表情。
でも耐えろっ。今は耐えるんだ。
「(くっそー。年下とはいえ、弱みを握られている以上盾突いたら何されるかわからな――)わかったって言っとんじゃい! こんの悪魔がああ!!」
しかし、葵の我慢は失敗に終わった▼
「……へえ?」
あ、と気付いた時にはもう、時すでに遅し。
「あんた、覚悟しときなよ」
「(ひえぇ……!)」
九条弟に、悪魔のような牙と尻尾が生えたように見えた瞬間、絶対零度の風が、どこからともなく吹き荒れた。
「(や、……やっちまった)」
後悔してももう遅い葵であった。



