――ダンッッ!!
「(……ハッ!)」
しかし、振り下ろされたはずの拳は葵に届くことはなかった。
「しっ、(しまったー……!)」
解説しよう。
大きく振り下ろした柊選手の拳を、余裕の表情でサラリと躱した葵選手。そのまま柊選手の右腕を掴んだまま、バッと後ろを向き、身体を折りたたむようにして、とーっても綺麗な一本背負いを決めてしまったので、あ〜る。
柊くんが葵に投げられたあとの余韻が少し残るものの、あれだけ大笑いしていた部屋の中は、一瞬で沈黙へと変わる。
「(ですよねー! そりゃ呆然としたくなりますよねー……!)」
ヤバいぞ葵!
今日で二回目も人生最大のピンチに出遭えるなんて!
なんとついてないことかっ!
流石にこればっかりは、言い逃れできそうにないぞ……?!
「…………ぷっ」
ぎゃあはははあははは!!
「(な、何事!?)」
一人焦っていたら、誰かから漏れた笑いをきっかけに、またまた大きな笑いが起こってしまった。
※しばらく誰も話せそうにないので、少々お待ちください。
* * *
葵の体内時計で多分、10分くらい過ぎた頃。
「あ、あのー……」
「あはは! いい気味チカ。どうですか? 綺麗に一本背負された感想は?」
「どうせなら鼻フックの方かけられなよ」
「いってー……。受け身取る暇もなかったし。てか、おいそこ! いつまでも笑ってんじゃねーよ! ヒナタ! あれやられたら鼻もげるだろうが!」
「もがれたら泣き虫も治るんじゃない」
「どういうことだよ!!」
「そういうことだよ」
桜庭さんと弟くんに話しかけられた柊くんは、未だに笑いが収まらないギャラリーと、鼻フックに文句を言っていた。
「(だ、だめだ……っ)」
弁解しようと思っても笑いが収まらず、あたふたとしていたら。
「道明寺」
灰色にまた名前を呼ばれ、胸の奥がざわついた。



