すべてはあの花のために①


 ――ダンッッ!!


「(……ハッ!)」


 しかし、振り下ろされたはずの拳は葵に届くことはなかった。


「しっ、(しまったー……!)」


 解説しよう。
 大きく振り下ろした柊選手の拳を、余裕の表情でサラリと躱した葵選手。そのまま柊選手の右腕を掴んだまま、バッと後ろを向き、身体を折りたたむようにして、とーっても綺麗な一本背負いを決めてしまったので、あ〜る。

 柊くんが葵に投げられたあとの余韻が少し残るものの、あれだけ大笑いしていた部屋の中は、一瞬で沈黙へと変わる。


「(ですよねー! そりゃ呆然としたくなりますよねー……!)」


 ヤバいぞ葵!
 今日で二回目も人生最大のピンチに出遭えるなんて!
 なんとついてないことかっ!
 流石にこればっかりは、言い逃れできそうにないぞ……?!



「…………ぷっ」


 ぎゃあはははあははは!!


「(な、何事!?)」


 一人焦っていたら、誰かから漏れた笑いをきっかけに、またまた大きな笑いが起こってしまった。


 ※しばらく誰も話せそうにないので、少々お待ちください。


 * * *


 葵の体内時計で多分、10分くらい過ぎた頃。


「あ、あのー……」

「あはは! いい気味チカ。どうですか? 綺麗に一本背負された感想は?」

「どうせなら鼻フックの方かけられなよ」


「いってー……。受け身取る暇もなかったし。てか、おいそこ! いつまでも笑ってんじゃねーよ! ヒナタ! あれやられたら鼻もげるだろうが!」

「もがれたら泣き虫も治るんじゃない」

「どういうことだよ!!」

「そういうことだよ」


 桜庭さんと弟くんに話しかけられた柊くんは、未だに笑いが収まらないギャラリーと、鼻フックに文句を言っていた。


「(だ、だめだ……っ)」


 弁解しようと思っても笑いが収まらず、あたふたとしていたら。


「道明寺」


 灰色にまた名前を呼ばれ、胸の奥がざわついた。