すべてはあの花のために①


 そして理事長室では、一体どこから持ってきたのか。そしていつから準備していたのか。
 籠にたっぷり入ったお祝い用の花びらを、理事長がフラワーシャワーの如く掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返していた。


「おっかえりおっかえり~」

「み、妙にテンション高いですね?」

「だってぼくの願い叶えてくれてるんだもん!」

「そ、そうですかそれならいいんですけど……」


 嬉しいのは理解できたが、いつの間にか理事長室には、花びらの絨毯が出来上がっていた。


「というか理事長! トーマさんのこともだったんでしょう!」

「うん! 君なら気付いてくれると思ってたよー」

「危うく見逃すところでしたよ! お父様たちからの話を聞かないと気付きませんでした!」

「でも君は気付いた。……流石、見えてるねえ」

「もしかして、お父様たちがグルってことは……?」

「それは違うよ。今回だけ」

「そうですか。……理事長」


 葵は、さっと姿勢を正す。


「無事に帰ってきました。朝倉菊、桜庭紀紗、桐生杜真。この三人はもう大丈夫です」

「ありがとう。でも、君は大丈夫かい?」

「……まだ、大丈夫だと思います」

「そうか。もし何かあればぼくに言うんだよ? それか警察に行こう」

「もしかしなくとも、その下り気に入ってますよね」

「うん。ちょっとお気に入り」

「ずっと引っ張って使わないでくださいね」


 余程お気に入りなのか、口を尖らせて拗ねていたけれど。


「それでは、彼らがイチャイチャし出す前に帰ります。遅くまで待っていてくださって、ありがとうございました」


 深く頭を下げた葵は、理事長室を後にした。



 その頃隣の部屋では……?


「ねえ菊ちゃん。本当に何があったのかな」

「トーマとのことか? どうせイチャイチャしてたんだろう」

「そうかもしれないんだけど、なんかあっちゃんの様子がおかしい気がして……」

「……ま、もし何かあったら言ってくるよ。友達なんだから」

「……うん。そうだね。その時は頼ってもらえるように女を磨かないと!」


 決意を固めたキサに、そっと手を伸ばそうとした、だけだったのに。


「お楽しみのところ大変申し訳ないんですが……」

「「……!!」」

「家なら誰も邪魔する人いないんでね、そこでどうぞごゆっくり」

「「……?!?!」」


 その後、車の中では誰も話さなかったんだとか。
 葵も、ちゃんと学校を出る時にシントに連絡をしておいたので、スマホに謝らずに済んだとさ。