そして理事長室では、一体どこから持ってきたのか。そしていつから準備していたのか。
籠にたっぷり入ったお祝い用の花びらを、理事長がフラワーシャワーの如く掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返していた。
「おっかえりおっかえり~」
「み、妙にテンション高いですね?」
「だってぼくの願い叶えてくれてるんだもん!」
「そ、そうですかそれならいいんですけど……」
嬉しいのは理解できたが、いつの間にか理事長室には、花びらの絨毯が出来上がっていた。
「というか理事長! トーマさんのこともだったんでしょう!」
「うん! 君なら気付いてくれると思ってたよー」
「危うく見逃すところでしたよ! お父様たちからの話を聞かないと気付きませんでした!」
「でも君は気付いた。……流石、見えてるねえ」
「もしかして、お父様たちがグルってことは……?」
「それは違うよ。今回だけ」
「そうですか。……理事長」
葵は、さっと姿勢を正す。
「無事に帰ってきました。朝倉菊、桜庭紀紗、桐生杜真。この三人はもう大丈夫です」
「ありがとう。でも、君は大丈夫かい?」
「……まだ、大丈夫だと思います」
「そうか。もし何かあればぼくに言うんだよ? それか警察に行こう」
「もしかしなくとも、その下り気に入ってますよね」
「うん。ちょっとお気に入り」
「ずっと引っ張って使わないでくださいね」
余程お気に入りなのか、口を尖らせて拗ねていたけれど。
「それでは、彼らがイチャイチャし出す前に帰ります。遅くまで待っていてくださって、ありがとうございました」
深く頭を下げた葵は、理事長室を後にした。
その頃隣の部屋では……?
「ねえ菊ちゃん。本当に何があったのかな」
「トーマとのことか? どうせイチャイチャしてたんだろう」
「そうかもしれないんだけど、なんかあっちゃんの様子がおかしい気がして……」
「……ま、もし何かあったら言ってくるよ。友達なんだから」
「……うん。そうだね。その時は頼ってもらえるように女を磨かないと!」
決意を固めたキサに、そっと手を伸ばそうとした、だけだったのに。
「お楽しみのところ大変申し訳ないんですが……」
「「……!!」」
「家なら誰も邪魔する人いないんでね、そこでどうぞごゆっくり」
「「……?!?!」」
その後、車の中では誰も話さなかったんだとか。
葵も、ちゃんと学校を出る時にシントに連絡をしておいたので、スマホに謝らずに済んだとさ。



