すべてはあの花のために①


 自分の席に戻ると、隣に座っていたチカゼが身動ぎする。


「んー……」

「チカくん? まだしばらくかかるから、もうちょっと寝てていいよ」

「んー……」


 寝惚けているのか、むにゃむにゃともれてくる声が可愛いくて、思わず鼻血が出そうに。


「着く前に起こすから、それまでおやすみ。今日は本当にお疲れ様」

「……て」

「チカくん?」

「あたま。……なでて?」


 聞こえたどこか切ない声に彼の顔を覗き込むと、上目遣いで小首を傾げながらおねだりされる。
 誰かと間違えているのか、でもその甘え方が可愛過ぎて、葵は涎を拭きながら彼の頭を撫でてあげた。


「……そのまま。きいてて」

「うん?」

「もう、さ。いろんな人に言われたと思うけど……」


 それは、小さな小さな声だった。


「今回のこと、……本当に、ありがとう。きさにも、きくにも。もちろんおれにも。……踏み込んでくれて、ありがとう」


 その後も続いていたけれど、もにゃもにゃしていてほとんど聞き取れなくて。何とか彼が、寝落ちる前に聞き取れたのは。


「……おれのこと。みすて。ないで……」


 時々寂しそうにする彼の、きっと根っこの部分。



「……うん。うんっ。だいじょうぶ。大丈夫だよ? 君には、みんながいるからね?」


 彼の毛布を掛け直し、しばらく頭を撫で続けた葵も少しだけ目を瞑る。



 だから、そんな会話を聞いている人がいるなんてことも。聞いていた人の表情が険しかったことも。

 ましてや()が今、どんな顔をしていたかなんて、知る由もない。