自分の席に戻ると、隣に座っていたチカゼが身動ぎする。
「んー……」
「チカくん? まだしばらくかかるから、もうちょっと寝てていいよ」
「んー……」
寝惚けているのか、むにゃむにゃともれてくる声が可愛いくて、思わず鼻血が出そうに。
「着く前に起こすから、それまでおやすみ。今日は本当にお疲れ様」
「……て」
「チカくん?」
「あたま。……なでて?」
聞こえたどこか切ない声に彼の顔を覗き込むと、上目遣いで小首を傾げながらおねだりされる。
誰かと間違えているのか、でもその甘え方が可愛過ぎて、葵は涎を拭きながら彼の頭を撫でてあげた。
「……そのまま。きいてて」
「うん?」
「もう、さ。いろんな人に言われたと思うけど……」
それは、小さな小さな声だった。
「今回のこと、……本当に、ありがとう。きさにも、きくにも。もちろんおれにも。……踏み込んでくれて、ありがとう」
その後も続いていたけれど、もにゃもにゃしていてほとんど聞き取れなくて。何とか彼が、寝落ちる前に聞き取れたのは。
「……おれのこと。みすて。ないで……」
時々寂しそうにする彼の、きっと根っこの部分。
「……うん。うんっ。だいじょうぶ。大丈夫だよ? 君には、みんながいるからね?」
彼の毛布を掛け直し、しばらく頭を撫で続けた葵も少しだけ目を瞑る。
だから、そんな会話を聞いている人がいるなんてことも。聞いていた人の表情が険しかったことも。
ましてや彼が今、どんな顔をしていたかなんて、知る由もない。



