すべてはあの花のために①


「それにしてもお前さん、学校に何の用事だ?」


 恐らく初めから聞いていたのだろう。
 素直に「理事長に会いに」と伝えると、「奇遇だな。オレもオレも」と軽い返事。


「学校に車も置いてあるから、ついでにお前さんも送ってやるよ」

「お二人の邪魔はしたくないんですけど……」

「ま、そう言いなさんな」


 本当は邪魔すんなって思ってるくせに。


「……ありがとうな」

「キク先生?」

「どうせキサの母ちゃんにいろいろ聞いたんだろ」


 それはきっと、彼の過去。そして、彼の後悔。


「なあ」

「はい?」

「お前さんは、このままでいいのか」

「……このままと、言いますと?」

「あの人の願いを叶えるだけで、本当にいいのかって聞いてる」

「……そうですね。わたし(、、、)には、そうすることしかできないので」

「そんなことはないだろう」

「先生も、理事長から何か言われたんじゃないですか? 例えば……そう。願いを」

「……!」

「“何かあれば”その願いを叶えるんでしょう?」


 そうしてカマをかけてみると案の定、キクの口からは「お見通しかよ」と、こぼれて落ちた。


「キク先生」

「ん?」

「わたしも、変わりませんよ。……恐らく、ずっと(、、、)

「……どうみょ」

「ではお言葉に甘えて、帰りはお願いしますね」

「……ああ」


 そう言って、葵は彼らの元へ帰って行った。



 残ったキクはというと――――。


「……はあ。本当は、お前さんが一番苦しいだろうに」


 誰が聞いているとも知らずにそう言った呟きは小さく、すぐに空気に溶けていった。