すべてはあの花のために①


「(……トーマさんは勘のいい人だ。これ以上は気を付けないと)」


 電話をほぼ無理矢理終わらせた葵は辺りを見渡す。


「(言われたから気を付けたつもりだけど……)」


 空気が変わったのがわかったのだろう。彼は、先程から横目でこちらの様子を窺っている。


「(……ま。もうこの話は終わりだ。それに、彼には聞きたいこともあるからちょうどいい。どうせトーマさん、わたしが気付いてるって言っちゃったんだろうし)」


 そう思って、葵は自分の方から彼の方へ近付いていった。


「ヒナタくん。ちょっといいかな?」

「ん。オレもあんたに聞きたいことあったから」

「そっか。……じゃあわたしからでもいい?」

「どうぞ」

「……君は、いつから知っていたんだろうか」


 その問いかけに、ヒナタからは「……何のこと」と怪訝な表情が返ってくる。


「キサちゃんの生みの親に連絡してたことだよ。わたしが気付いてることは知ってるんでしょう?」

「うん。トーマに聞いた」

「ならなんで、……ヒナタくんは全部知ってたの」


 彼女は4月に連絡が来始めたと言っていた。
 ならどうして、彼はそのことを知っていた?

 葵が知ったのは5月に入ってからだった。
 加えて理事長から聞いた、家庭の事情を“全て”知っている人の中に、彼の名はなかった。

 でもメッセージには、トーマと結婚するという内容まで書かれていたのだ。


「4月に入ってすぐ、どうやって君は知った? その頃に結婚を早めたのを知っていたのは、恐らく家族の人たちだけ。きっとチカくんたちは、もう少し経って彼女から直接聞いたよね」

「あんたはちゃんと、彼女の話を聞いていないね」

「え。ど、どういうこと?」

「彼女は、『4月に入ってすぐ』とは言ってなかったでしょ。それに言ってなかった? 『連絡は時々来てた』って」

「う、うん」

「オレは最初から、キサがトーマと結婚するなんて知らなかったし、知らないんだから彼女にも言えないでしょ。ちゃんと人の話聞きなよ」

「(……その通りだ。図星過ぎて何も言えない)」


 思わず俯いていると、少しだけ諭すように「あのさ」と、彼はやわらかい音で続けた。


「少なくとも、あいつが今の家に引き取られたことは知ってたし、婚約者がいるってことも生徒会のメンバーは知ってる。だから、キサが家庭の事情で学校をやめるって言った時、婚約者との結婚があるのかもしれないことまでは、普通に予想付いてたよ」

「えっ。……な、なんで? 血が繋がっていないのを知ってるのは、家族以外にトーマさんとチカくんと先生だけじゃ……」

「逆に聞くけど、なんでそう思ったの。オレたち小学校から一緒だったんだけど」

「だって、チカくんはあの時……」


 ――その時、そのことをあいつから直接聞いたのは“オレらだけ”だ……って。