すべてはあの花のために①


「じゃあそろそろ葵ちゃんに代わって」

『トーマ』

「ん?」

『みんなに言っとくね。唾つけたこと』

「え? そりゃいいけど、お前が知ってりゃ俺は十分……」

『オレは生徒会の伝達係なので』

「何だよその係! てかやっぱり、みんな同じかよ!」

『恐らくね。だから、言ったところで負ける気はないと思うよ』

「言ってくれるじゃん」

『少なくとも学校一緒だし、しょっちゅう生徒会で一緒にいるし』

「やっぱり生徒会解散してくれない?」


 頭を抱えた俺に追い打ちをかけるように、ヒナタには『無理な相談』とはっきり突っぱねられた。


「……じゃあ宣戦布告しとけ」

『了解』

「ちなみにもうキスまではいってるから」

『ちょっと、唾ってまさかそういうこと?』


 それにはただ、「葵ちゃんに代わって?」と、声のトーンを一つ上げて返しておいた。

 その後、電話先から聞こえた『……ん。ううん。まだ繋がってる』という納得のいっていない様子の声に笑いを堪えていると、ようやく念願の彼女の声。


『もしもし! 代わりました!』

「……はあ。もう声だけじゃ物足りないんだけど」

『えっと……?』

「ねえ葵ちゃん。次会えた時、また抱き締めてもいい?」

『ええっ!?』

「そうしたらきっと疲れも吹っ飛ぶよ」

『? ……ヒナタくんと何を話したんですか?』

「こればっかりは男同士の約束だから。葵ちゃんは気にしないで」

『……わかりました?』


 頭に疑問符を浮かべている様子が目に浮かぶ。
 そんな可愛い彼女に、しつこく何度も抱き締めさせてもらえるよう交渉していたら、まさかのまさか。


『……わかりました! もし会えたら!』

「……頼み込んだ俺が言うのもなんだけど、そういうことあんまり了承しない方がいいんじゃない?」

『いいえ! その時は是非! 思いっ切りお願いします!』

「まさかとは思うけど、それってあんまり作品出るなってことじゃないよね?」

『…………』

「そんなこと言う子には、キスもつけるよ」

『そ、それはご勘弁を』

「ふはっ。冗談だよ。冗談じゃなくてもいいけど」

『トーマさんすみません。そろそろ……』

「そっか。……名残惜しいけど、毎日連絡するね。絶対するから」

『ふふっ。……はい。楽しみにしてますね?』

「うん。じゃ、またね」

『……。……はい。さようなら、トーマさん』


 静かに電話が切れる。画面には、通話時間20分の文字。
 そして、耳に残る妙な違和感。


「……さようならってことは、もう会わない……もしくは、会えないってこと?」


 加えてキクから聞かされた話を思い出し、思わず顔が険しくなる。


「……ここまで本気にさせたんだ。簡単に諦められるか」


 スマホを力強く握り締め、一人歩き出す。


「……さて。俺は俺で調べるとしましょうか」


 情報戦で負けてはいられない。
 だから、絶対に君を――――枯らせはしないよ。