「じゃあそろそろ葵ちゃんに代わって」
『トーマ』
「ん?」
『みんなに言っとくね。唾つけたこと』
「え? そりゃいいけど、お前が知ってりゃ俺は十分……」
『オレは生徒会の伝達係なので』
「何だよその係! てかやっぱり、みんな同じかよ!」
『恐らくね。だから、言ったところで負ける気はないと思うよ』
「言ってくれるじゃん」
『少なくとも学校一緒だし、しょっちゅう生徒会で一緒にいるし』
「やっぱり生徒会解散してくれない?」
頭を抱えた俺に追い打ちをかけるように、ヒナタには『無理な相談』とはっきり突っぱねられた。
「……じゃあ宣戦布告しとけ」
『了解』
「ちなみにもうキスまではいってるから」
『ちょっと、唾ってまさかそういうこと?』
それにはただ、「葵ちゃんに代わって?」と、声のトーンを一つ上げて返しておいた。
その後、電話先から聞こえた『……ん。ううん。まだ繋がってる』という納得のいっていない様子の声に笑いを堪えていると、ようやく念願の彼女の声。
『もしもし! 代わりました!』
「……はあ。もう声だけじゃ物足りないんだけど」
『えっと……?』
「ねえ葵ちゃん。次会えた時、また抱き締めてもいい?」
『ええっ!?』
「そうしたらきっと疲れも吹っ飛ぶよ」
『? ……ヒナタくんと何を話したんですか?』
「こればっかりは男同士の約束だから。葵ちゃんは気にしないで」
『……わかりました?』
頭に疑問符を浮かべている様子が目に浮かぶ。
そんな可愛い彼女に、しつこく何度も抱き締めさせてもらえるよう交渉していたら、まさかのまさか。
『……わかりました! もし会えたら!』
「……頼み込んだ俺が言うのもなんだけど、そういうことあんまり了承しない方がいいんじゃない?」
『いいえ! その時は是非! 思いっ切りお願いします!』
「まさかとは思うけど、それってあんまり作品出るなってことじゃないよね?」
『…………』
「そんなこと言う子には、キスもつけるよ」
『そ、それはご勘弁を』
「ふはっ。冗談だよ。冗談じゃなくてもいいけど」
『トーマさんすみません。そろそろ……』
「そっか。……名残惜しいけど、毎日連絡するね。絶対するから」
『ふふっ。……はい。楽しみにしてますね?』
「うん。じゃ、またね」
『……。……はい。さようなら、トーマさん』
静かに電話が切れる。画面には、通話時間20分の文字。
そして、耳に残る妙な違和感。
「……さようならってことは、もう会わない……もしくは、会えないってこと?」
加えてキクから聞かされた話を思い出し、思わず顔が険しくなる。
「……ここまで本気にさせたんだ。簡単に諦められるか」
スマホを力強く握り締め、一人歩き出す。
「……さて。俺は俺で調べるとしましょうか」
情報戦で負けてはいられない。
だから、絶対に君を――――枯らせはしないよ。



