すべてはあの花のために①

 * * *


 いきなりスマホを手渡されたのか、電話口からは『……何なの』とヒナタの不満そうな呟きが漏れていて、思わず噴き出して笑う。


『……え? 誰?』

「俺俺。俺だよ日向」

『詐欺は間に合ってるので』

「待て待て切るな。杜真ですよ」

『え? トーマ?』

「元気してたか?」

『うん。こっちはみんな元気だよ』


 少しだけ嬉しそうな声が聞こえて、こちらまで気分が明るくなる。


「日向、ありがとう」

『? 何が?』

「陰のヒーローお疲れ様ってこと」

『は? ほんと、何のこと?』

「お前のおかげで、みんな前に進めたから。紀紗も向き合ったから、もう大丈夫だよ」


 束の間の沈黙後、小さな小さな安堵のため息が聞こえ、ふっと頬が緩む。


『……まさか、本当に行ってると思ってなかったから。ちょっと驚いた』

「俺もそう思う。葵ちゃんは本当にすごいよ」

『変態だけどね』

「ははっ。それには納得だわ」

『変人の下僕だし』

「……成る程ね。お前が名付け親なら、釘刺しとくか」

『? どういうこと?』

「本気だから、手出すなよ」


 もう唾はつけておいたと伝えると、電話口からは『誰があんな奴に手出すの』と呆れ声。


「お前、本当にそう思ってるのか?」

『何を心配してるのか知らないけど、大丈夫だよ。そんな心配も塵と化すから』

「でも少なくともお前は、あの子を信用してはいるだろう?」

『は? 誰があんな変態』


 強めの口調に「バカ。ちゃんとお礼言っとけ」と返す。


「自分が気付いてることを、お前がよく思わないかもしれないからって言ってたぞ。ちょっと寂しそうに」

『や、それは』

「あのメッセージがお前だって、あの子はちゃんと気付いてた。だから俺に頼んだんだ。……その気持ちには、ちゃんと答えてやれ」


 幾らかの葛藤後、絞り出すように聞こえた了承の声は、ほんの少しだけ照れが混じっているような気がした。