身動ぎしようと思っていたら、ぎゅっと力が入ってくる。
「……トーマさん?」
「ちゃんと言ってなかったから、このまま聞いてて欲しいんだけど」
そう言うので、返事の代わりに目の前の彼の服をぎゅっと掴む。
「……俺さ、ちゃんと紀紗に言えたんだ。『好きだった』って」
葵は、彼の腕の中で静かに頷く。
「それで……お礼、ちゃんと言いたくて。でも上手く言えない自信があるから、その代わりに今、俺がしてもらったら嬉しいことしてるんだけど――……っ」
そう話す彼の背中に、そっと手を回す。
彼の鼓動が速くなった気がして、それが少し耳心地いい。
「……それに、紀紗の本当の気持ちも聞けたし、生みの親の人たちにも会って、ちゃんと話したんだ。だから、あいつも前に進めたから。安心して」
「よっ、よかった……」
思わず、そのまま背中の服を掴む。皺になってももう知らないと、小さな呟きを何度もこぼしながら、ぎゅっと手に力を込めた。
嬉しさに顔を上げられないでいると、頭をそっと、大きな手が撫でる。
「俺もちゃんと前に進めたから、改めて言わせて。……葵ちゃん。俺の背中押してくれて、俺に勇気くれて、そして俺を怒ってくれて、――……ありがとう」
あまりのやさしい声音に、葵は体を起こして、それに応えた。
「どういたしましてっ!」
思わず自分まで嬉しくなって、笑顔がこぼれる。
「それと、もう一つ」
「はい! なんでしょ――んむっ」
ふっと一瞬浮遊感に似た感覚があってすぐ、唇のすぐ横にやってきた、あたたかくてやわらかい感触。
「ちゃんと言わないとわかってくれそうにないから、ハッキリ言っておくね。俺、葵ちゃんのことが好きになったから。だから、覚悟しといてね。長かった片想いの上書き、付き合ってもらうから」
「……え(えええー……っ?!)」
そこまで前に進まなくてもよかったと、心底思った葵は、顔を真っ赤にしながらキスを落とされたところを両手で押さえズルズルと後ずさった。
「……え。何それ。かわいすぎない?」
パニック寸前で腰が抜けた葵を余所に、デレデレなトーマであった。



