――新郎控え室。
「(はあ。もうちょっとか……ぷっ)」
その頃トーマは、頑張って笑いを堪えていた。
「(だってめちゃくちゃ過ぎて……もう笑い堪えられねえ!)」
とか思いつつ、「あー今日楽しみだな~」なんて言いつつ。再び笑いを堪えていると、扉をノックする音が聞こえて来た。
「(誰?)はい。どうぞ」
奪還組とは、彼らの出番になるまで会わない手筈になっている。
「どうもトーマくん。昨日ぶりね?」
「はっ、はじめまして……っ!」
控えめに開かれた扉から現れたのは、昨日会った彼女の本当の母親と、若干ビビり気味の男性。
「(おいおい。どんな脅し方したんだよ)」
どうやら来てくれたみたいだが、男性は尋常じゃないほど怯えていた。
「ねえ聞いてよ。この人ったら、再会した時からもうずっとこの調子。おかげでまわりからすごい変な目で見られてるのよ? あたしたち一応お忍びで来てるのにっ」
「いいい、いや、だって……来ないなら俺の個人情報流出させるって言われて、来たら来たで、常に俺をスコープで照準合わせておくからって言われたら、そりゃ怖いだろ……っ!」
「あの子がそんなことするわけないでしょ!」
「だ、大体お前は――」
おいおい。誰だよ、そんな怖い脅し方してんのは。
「(ま、大体予想はついてるけど)お楽しみ中のところ申し訳ないんですけど、俺に用事があったんですよね」
「そうなの。……覚悟はできてるわ。あたしも、この人も」
「ああ。……申し訳ないんだけど、連れて行ってくれるかな」
「喜んで。ではまず、ご両親の方からですね」
「うん!」
「よろしくお願いします」
トーマは二人を連れ、彼女の両親がいる控え室へと連れて行った。
「こちらです」
「はあ。とうとう来てしまったわ」
「い、胃が痛い……」
「緊張されなくても大丈夫ですよ。きっと、あなた方が本気で自分の気持ちを正直に言えば、前に進めます」
人の受け売りですけどねと、そう伝えると二人の表情がふわりと柔らかくなった。
「俺は扉の外で待っておきますので、話が終わったら教えてください。終わり次第今度は、あいつのところへご案内しますので」
「……ありがとう」
「感謝します」
彼らはそう言って扉をぎこちなく叩き、部屋の中へと入っていった。
披露宴開始まで、あと30分



