すべてはあの花のために①


 ――新郎控え室。


「(はあ。もうちょっとか……ぷっ)」


 その頃トーマは、頑張って笑いを堪えていた。


「(だってめちゃくちゃ過ぎて……もう笑い堪えられねえ!)」


 とか思いつつ、「あー今日楽しみだな~」なんて言いつつ。再び笑いを堪えていると、扉をノックする音が聞こえて来た。


「(誰?)はい。どうぞ」


 奪還組とは、彼らの出番になるまで会わない手筈になっている。


「どうもトーマくん。昨日ぶりね?」

「はっ、はじめまして……っ!」


 控えめに開かれた扉から現れたのは、昨日会った彼女の本当の母親と、若干ビビり気味の男性。


「(おいおい。どんな脅し方したんだよ)」


 どうやら来てくれたみたいだが、男性は尋常じゃないほど怯えていた。


「ねえ聞いてよ。この人ったら、再会した時からもうずっとこの調子。おかげでまわりからすごい変な目で見られてるのよ? あたしたち一応お忍びで来てるのにっ」

「いいい、いや、だって……来ないなら俺の個人情報流出させるって言われて、来たら来たで、常に俺をスコープで照準合わせておくからって言われたら、そりゃ怖いだろ……っ!」

「あの子がそんなことするわけないでしょ!」

「だ、大体お前は――」


 おいおい。誰だよ、そんな怖い脅し方してんのは。


「(ま、大体予想はついてるけど)お楽しみ中のところ申し訳ないんですけど、俺に用事があったんですよね」

「そうなの。……覚悟はできてるわ。あたしも、この人も」

「ああ。……申し訳ないんだけど、連れて行ってくれるかな」

「喜んで。ではまず、ご両親の方からですね」

「うん!」

「よろしくお願いします」


 トーマは二人を連れ、彼女の両親がいる控え室へと連れて行った。


「こちらです」

「はあ。とうとう来てしまったわ」

「い、胃が痛い……」

「緊張されなくても大丈夫ですよ。きっと、あなた方が本気で自分の気持ちを正直に言えば、前に進めます」


 人の受け売りですけどねと、そう伝えると二人の表情がふわりと柔らかくなった。


「俺は扉の外で待っておきますので、話が終わったら教えてください。終わり次第今度は、あいつのところへご案内しますので」

「……ありがとう」

「感謝します」


 彼らはそう言って扉をぎこちなく叩き、部屋の中へと入っていった。


 披露宴開始まで、あと30分