彼女は目を見開いたまま固まっている。
でも、返事が聞きたいわけじゃない。だって、こっちはもう進んだんだ。これはその報告。
それに、あの子はこう言ってたな。独り言で。
「でもお前は、知ってたんだろ?」
『あの子は、アカリさんの娘ですから』と。
「それを知っていたから、お前は俺の気持ちを利用して、婚約者になったんだもんな」
酷い言い方しかしかできない。でも、言いたいことは変わらない。
お前は、誰よりも自分の両親が大好きだからな。
「知ってたよ」
ほら、やっぱりそうだ。……でも、なんでだろうな。そんなに胸、苦しくないもんだな。
「知ってたけど、利用したわけじゃない」
「そりゃ両親や俺らに酷いことするって言われたら、言うこと聞くしかねえもんな」
「っえ?」
「本当に、そんなつもりなんかなかったか? 1ミリも?」
「…………」
「1ミリもなかったんか。じゃあ、そういうことにしといてやる」
彼女は俯いている。……そんな顔させたかったわけじゃないのにな。
「俺はな、お前のことは好きだったって言ったんだ。だから、返事とかはいらないんだよ」
「……じゃあ返事の代わりに、『好きになってくれてありがとう』でいいかな?」
「ん。俺も、お前を好きになれてよかったよ」
「そっか。……それはよかったっ」
久し振りに見た、笑った顔。
……俺でも少しは、こいつを笑わせられたんだな。
「それはそうとさ、それって今別に言わなくてよかったんじゃないの。明日本番なのに杜真、嫌じゃない?」
「最初は全然言う気なんかなかったよ。これは、俺が一生抱えて生きてればいいんだって思ってた」
「だったらなんで……」
「でもそれを、ただの自己満足だって言ってきた奴がいたんだよ。そいつが言うにはさ、俺は前に進めてないらしい。だから俺は前に進むために、お前に今の正直な気持ちを伝えただけ」
「え?」
「でも俺は、お前のことも前に進めてやりたいんだ」
だから今、お前の口から正直な気持ちを聞かせて欲しい。



