すべてはあの花のために①


 彼女は目を見開いたまま固まっている。
 でも、返事が聞きたいわけじゃない。だって、こっちはもう進んだんだ。これはその報告。

 それに、あの子はこう言ってたな。独り言で。


「でもお前は、知ってたんだろ?」


『あの子は、アカリさんの娘ですから』と。


「それを知っていたから、お前は俺の気持ちを利用して、婚約者になったんだもんな」


 酷い言い方しかしかできない。でも、言いたいことは変わらない。
 お前は、誰よりも自分の両親が大好きだからな。


「知ってたよ」


 ほら、やっぱりそうだ。……でも、なんでだろうな。そんなに胸、苦しくないもんだな。


「知ってたけど、利用したわけじゃない」

「そりゃ両親や俺らに酷いことするって言われたら、言うこと聞くしかねえもんな」

「っえ?」

「本当に、そんなつもりなんかなかったか? 1ミリも?」

「…………」

「1ミリもなかったんか。じゃあ、そういうことにしといてやる」


 彼女は俯いている。……そんな顔させたかったわけじゃないのにな。


「俺はな、お前のことは好きだったって言ったんだ。だから、返事とかはいらないんだよ」

「……じゃあ返事の代わりに、『好きになってくれてありがとう』でいいかな?」

「ん。俺も、お前を好きになれてよかったよ」

「そっか。……それはよかったっ」


 久し振りに見た、笑った顔。
 ……俺でも少しは、こいつを笑わせられたんだな。


「それはそうとさ、それって今別に言わなくてよかったんじゃないの。明日本番なのに杜真、嫌じゃない?」

「最初は全然言う気なんかなかったよ。これは、俺が一生抱えて生きてればいいんだって思ってた」

「だったらなんで……」

「でもそれを、ただの自己満足だって言ってきた奴がいたんだよ。そいつが言うにはさ、俺は前に進めてないらしい。だから俺は前に進むために、お前に今の正直な気持ちを伝えただけ」

「え?」

「でも俺は、お前のことも前に進めてやりたいんだ」


 だから今、お前の口から正直な気持ちを聞かせて欲しい。