すべてはあの花のために①


「じゃあ、俺の目の前に座ったあの子との出会いは運命ってわけだ。思ってた以上の美人だったし」

「いや、運命とかじゃなくて待ち合わせしてたんですよね?」

「店中の視線釘付けだよ?」

「それは絶対お前も入ってる」

「美人で頭も切れて、そして変態と。突飛な行動する度バクバク心臓が動いたのはもしや、もうその時すでに芽生えて……」

「お前、わかっててやってるだろ」


 その時の出会いを思い出してしまったのだろうか。「ははっ!」と大口を開けて笑うのを、本当に久し振りに見た気がする。


「あー……ははっ。笑い過ぎで死にそう。助けて菊」


 どんだけ笑うんだよ。
 いつもクールぶってるくせに。


「それでお前は、そんな美人で、変態で、妄想が激しくて、変人で」

「いや、そこまで俺言ってねえ」

「頭が切れ過ぎて、お前をここまで笑わせてくれて、近付いてくれたあいつが好きになっちゃったわけですか」

「その子が言うには、俺は人一倍やさしいらしいよ」

「……わりい、耳が悪くなったみてえ」

「なあ菊」

「ん?」

「気持ち一つ持って動いてみたら、……案外気持ちいいもんだな」

「トーマ……」

「その子がさ、絶対に幸せになって欲しいなんて言うから。……今度は少しくらい、頑張ってみてもいいのかな」

「…………」

「ううん。頑張るよ、俺」


 トーマは希望の篭った視線を、遠くへとやる。
 その横で煙草の火を消してから、ぽんっと肩を叩いた。


「敵は多いぞ。頑張れよ」

「っ、そんな気はしてたんだよ……!」


「生徒会、解散してくれねえかなあ」と本気で無茶を言うこいつには、伝えておこうか。

 いや、存分に巻き込んでおくべきだろう。


「お前には少し話しておく。気になったら自分で調べろよ」

「? 何を?」

「あの子は……ーー、ーーーー。『道明寺 葵』はーー、ーーーーーーーー」

「……おい。それってどういう」

「一番苦しんでるのは」


 ――……あの子だってことだ。