「じゃあ、俺の目の前に座ったあの子との出会いは運命ってわけだ。思ってた以上の美人だったし」
「いや、運命とかじゃなくて待ち合わせしてたんですよね?」
「店中の視線釘付けだよ?」
「それは絶対お前も入ってる」
「美人で頭も切れて、そして変態と。突飛な行動する度バクバク心臓が動いたのはもしや、もうその時すでに芽生えて……」
「お前、わかっててやってるだろ」
その時の出会いを思い出してしまったのだろうか。「ははっ!」と大口を開けて笑うのを、本当に久し振りに見た気がする。
「あー……ははっ。笑い過ぎで死にそう。助けて菊」
どんだけ笑うんだよ。
いつもクールぶってるくせに。
「それでお前は、そんな美人で、変態で、妄想が激しくて、変人で」
「いや、そこまで俺言ってねえ」
「頭が切れ過ぎて、お前をここまで笑わせてくれて、近付いてくれたあいつが好きになっちゃったわけですか」
「その子が言うには、俺は人一倍やさしいらしいよ」
「……わりい、耳が悪くなったみてえ」
「なあ菊」
「ん?」
「気持ち一つ持って動いてみたら、……案外気持ちいいもんだな」
「トーマ……」
「その子がさ、絶対に幸せになって欲しいなんて言うから。……今度は少しくらい、頑張ってみてもいいのかな」
「…………」
「ううん。頑張るよ、俺」
トーマは希望の篭った視線を、遠くへとやる。
その横で煙草の火を消してから、ぽんっと肩を叩いた。
「敵は多いぞ。頑張れよ」
「っ、そんな気はしてたんだよ……!」
「生徒会、解散してくれねえかなあ」と本気で無茶を言うこいつには、伝えておこうか。
いや、存分に巻き込んでおくべきだろう。
「お前には少し話しておく。気になったら自分で調べろよ」
「? 何を?」
「あの子は……ーー、ーーーー。『道明寺 葵』はーー、ーーーーーーーー」
「……おい。それってどういう」
「一番苦しんでるのは」
――……あの子だってことだ。



