一度、何かを探すように遠くを見つめた視線が、結局何も見つからなかったのか。苦笑いを含んで帰ってくる。
「昔、教えてもらったことがあるんだ。人を動かすのに、一番手っ取り早い方法」
「なんだそりゃ」
「そいつが俺に教えたのは、『その人にとって一番都合の悪いものを知ること』だった」
「は?」
「そして、都合の悪いことを知られた俺は、まんまと本家の願いを聞き入れた」
「……トーマ。お前まさか……」
「まあ女王様の言うことは絶対だし、逆らえなかったのは勿論あるけど。……大事な人たちに酷いことするなんて言われたら、まだ小さかったあの頃の俺は、流石にどうしようもなかったよ」
トーマの口から出てきた昔話に、つくづくあの頃の自分が嫌になる。どうして、気付いてやれなかったんだと。
「けどあの子は言ったんだ。『人を動かすのなんて、気持ち一つで十分だ』って。それは、俺が知っているのとは全く別の方法だった」
聞き覚えのあり過ぎる言葉。どうやら彼女の力ある言葉に心を揺らされた奴がまた一人、増えたらしい。
「嫌いなんだよね。ああいう、何の疑いもなく正しいことばっかり並べるの」
「捻くれてんなあお前」
「じゃあどうしろって? 俺は、最初の方法しか知らない」
「だったら気持ちがいい方にしろよ」
「人の弱み掴むことほど気持ちのいいことってないけど。特にすげえ腹立つ奴とか」
「そうじゃなくて。……自分が、動かされる方の気持ちになってみろって話」
「やだ」
「最初っからわかってるくせして……」
気持ちを持ってないとお前、そもそも今ここにいねーだろうよ。
「だって、こんなんおかしいだろ」
「おかしかねーよ。きっかけだって、それこそ時間だって」
「年齢だって一緒だって? まさかお前、自分がロリコンなのを正当化しようとしてんの」
「トーマ」
宥めるように、名前を呼ぶ。
「人それぞれだよ。……ちゃんとお前の心に触れてくれた子を、それ以上そんな扱いしてやりなさんな」
「あと、オレはロリコンじゃねえ」と言うツッコミは、早々に「気持ちがいい方か……」という独り言に掻き消された。



