すべてはあの花のために①


 一度、何かを探すように遠くを見つめた視線が、結局何も見つからなかったのか。苦笑いを含んで帰ってくる。


「昔、教えてもらったことがあるんだ。人を動かすのに、一番手っ取り早い方法」

「なんだそりゃ」

「そいつが俺に教えたのは、『その人にとって一番都合の悪いものを知ること』だった」

「は?」

「そして、都合の悪いことを知られた俺は、まんまと本家の願いを聞き入れた」

「……トーマ。お前まさか……」

「まあ女王様の言うことは絶対だし、逆らえなかったのは勿論あるけど。……大事な人たちに酷いことするなんて言われたら、まだ小さかったあの頃の俺は、流石にどうしようもなかったよ」


 トーマの口から出てきた昔話に、つくづくあの頃の自分が嫌になる。どうして、気付いてやれなかったんだと。


「けどあの子は言ったんだ。『人を動かすのなんて、気持ち一つで十分だ』って。それは、俺が知っているのとは全く別の方法だった」


 聞き覚えのあり過ぎる言葉。どうやら彼女の力ある言葉に心を揺らされた奴がまた一人、増えたらしい。


「嫌いなんだよね。ああいう、何の疑いもなく正しいことばっかり並べるの」

「捻くれてんなあお前」

「じゃあどうしろって? 俺は、最初の方法しか知らない」

「だったら気持ちがいい方にしろよ」

「人の弱み掴むことほど気持ちのいいことってないけど。特にすげえ腹立つ奴とか」

「そうじゃなくて。……自分が、動かされる方の気持ちになってみろって話」

「やだ」

「最初っからわかってるくせして……」


 気持ちを持ってないとお前、そもそも今ここにいねーだろうよ。


「だって、こんなんおかしいだろ」

「おかしかねーよ。きっかけだって、それこそ時間だって」

「年齢だって一緒だって? まさかお前、自分がロリコンなのを正当化しようとしてんの」

「トーマ」


 宥めるように、名前を呼ぶ。


「人それぞれだよ。……ちゃんとお前の心に触れてくれた子を、それ以上そんな扱いしてやりなさんな」


「あと、オレはロリコンじゃねえ」と言うツッコミは、早々に「気持ちがいい方か……」という独り言に掻き消された。