今まで下げていた顔を反射的に上げたトーマには、煙草を吹かすだけ。はああー……と大きなため息を落としたトーマは、「今までの緊張返せ」と睨んでくるが、その顔や声は、いつもの調子に戻っていた。
「いつから気付いてた」
「何となくだけど、あいつがオレを見る目が変わった時かなと」
「最初っからじゃん」
再びため息を落とす彼にクスッと小さく笑っていると今度は殺意を込めて睨まれた。そういえば、こいつも敵に回しちゃいけないんだった。
「それで? どうしてお前は、今になって言ってくれちゃったのかねえ」
「俺なんかのために、わざわざ近付いて来てくれた子がいたから」
「そうかいそうかい。それで? その時その子は、オレに謝れって言ってたか?」
「……いや?」
「だったらこれは謝らなくてもいいことだ。……よし。勇気を出してくれたお前に、オレが特別にこの話をしてやろう」
「何?」
「オレは、お前がキサを好きだったから動こうとしなかった部分もあるんだ。少なくともお前は、キサを好いてやってくれてるから」
「……おい。ふざけんなよ」
「まあまあ落ち着け。……オレは変わらなかったから、それでも今まで動こうなんて思わなかった。でもその子はオレに、変わらなくてよかったって言ってくれたんだ」
「……うん」
「あいつを好きな気持ちが、変わらなくてよかったって。それがわたしは嬉しいんだって。本気でそう言うんだよ」
「うん。聞いたよ」
「だから、変わらずにあいつが好きだから、オレはここまで来られた。……明日、オレはあいつを奪いに行くからな」
トーマは目を見開いていた。
そりゃあ驚くだろう。自分がまさか、こんなこと言うなんて。思い出しただけで恥ずかしいわ。
「残念でした。その子はこんな話もしてたからな」
けれどそのあと、何故かトーマはにやっと笑った。
「『わたしたちは、あなたが自分の気持ちに正直になるまで、キサちゃんのこと奪いには行かないのでー』ってな」
「は?」
「だから、要は俺次第ってこと。その間お前は、指咥えて待ってるしかないそうだ」
「いや何それ。そんなこと聞いてないんですけど。あの子なんでそんなこと言ってくれちゃったわけ?」
「明日が楽しみだな」
「いやほんと待て。どういうことだよ。まさかお前裏切るの? この土壇場で?」
「そういえばその子は、それでもいいじゃないかって言ってたなあ」
「おいおいおいー。マジですかい」
こっちが本気で焦っているというのに、こいつは腹を抱えて笑ってるし。
「嘘だよ。冗談冗談」
「お前が言っても信じられん」
「ほんとほんと。今から本家帰って言うからさ、その前にちゃんと言っておこうと思って」
「…………」
「大丈夫だって。信じろよ。俺が今まで、お前に嘘吐いたことあるか?」
「これでもかと言うほどある」
「そんなこと言うならじゃあ、俺はこのまま家に帰らないでおこうかな」
「頼むから帰ってお願い」
「ははっ、大丈夫だって。……長い片想いには、そろそろ終止符打っとかねえとな」
「トーマ……」
「なあ菊」
「ん?」



