すべてはあの花のために①


「聞いていてくれるだけでいいって言われたけど、変なこと言ったら口を挟もうと思ってたよ」

「え……?」

「つまり、そういうこと」


 実はあんなに強気で言っていた葵も、確証があったわけではない。間違ってたら、本当に謝るつもりだったのだ。


「ま、逆らえなかったのは本当だけど」

「(だから、キサちゃんは一体何をしたの!)」

「……そうだな。最初は本当、全くそんな気はなかったはずだよ。多分、紀紗が菊のことを好きになり始めたくらいじゃない?」

「トーマさん……」

「俺は、菊に恋する紀紗が好きだったんだろうね」


 彼はまた、そう言って窓の向こうの景色に視線を流した。


「最初から諦めが付いたものだった。初めから、終わりは見えてたから」

「……何も。なにも始まってないじゃないですか! トーマさんはまだ、何もしてない!」

「うん。それでいいんだよ。わからないかも知れないけど、この状況でも割と楽しかったんだよね」

「(そんな幸せそうな顔されたら、何も言えない……)」

「でもさっき、君があわよくばって言った時。……正直意識してなかったから、言われた瞬間鳥肌立った」


 あの時は、本当に失礼なことを言ってしまったけれど、後悔はない。真っ直ぐ、ぶつけたかったんだ。彼のことも……進ませるために。


「だから、『お前にその気がないなら俺がもらう』って。もしかしたら思ってたのかもしれない。でも菊がちゃんと迎えに来て安心した。俺じゃ、あいつを笑顔にはできないから」

「(少し寂しそう。でも、どちらかというと嬉しいかな)」


 彼らを思うだけで、こんなにもやさしく表情を変える彼を見ていると、少し胸が苦しくなる。


「二人には幸せになって欲しいっていうのが、ずっと抱いてた俺の正直な気持ち。でも俺は止まってるわけじゃないよ。誰かさんがさっき、背中押してくれて、勇気くれて、怒ってくれたこと。ちゃんと届いたから」


 だからと、ぽんと肩を叩かれた。


「前に進むためにも、ちゃんと紀紗に好きだった(、、、)って言うよ。だから、ちゃんと奪還しに来てね下僕さん?」

「……当たり前です」


 一瞬、誰かさんの顔がチラついたぞ。
 ……うん。幻覚だ。そうに決まってる。