「聞いていてくれるだけでいいって言われたけど、変なこと言ったら口を挟もうと思ってたよ」
「え……?」
「つまり、そういうこと」
実はあんなに強気で言っていた葵も、確証があったわけではない。間違ってたら、本当に謝るつもりだったのだ。
「ま、逆らえなかったのは本当だけど」
「(だから、キサちゃんは一体何をしたの!)」
「……そうだな。最初は本当、全くそんな気はなかったはずだよ。多分、紀紗が菊のことを好きになり始めたくらいじゃない?」
「トーマさん……」
「俺は、菊に恋する紀紗が好きだったんだろうね」
彼はまた、そう言って窓の向こうの景色に視線を流した。
「最初から諦めが付いたものだった。初めから、終わりは見えてたから」
「……何も。なにも始まってないじゃないですか! トーマさんはまだ、何もしてない!」
「うん。それでいいんだよ。わからないかも知れないけど、この状況でも割と楽しかったんだよね」
「(そんな幸せそうな顔されたら、何も言えない……)」
「でもさっき、君があわよくばって言った時。……正直意識してなかったから、言われた瞬間鳥肌立った」
あの時は、本当に失礼なことを言ってしまったけれど、後悔はない。真っ直ぐ、ぶつけたかったんだ。彼のことも……進ませるために。
「だから、『お前にその気がないなら俺がもらう』って。もしかしたら思ってたのかもしれない。でも菊がちゃんと迎えに来て安心した。俺じゃ、あいつを笑顔にはできないから」
「(少し寂しそう。でも、どちらかというと嬉しいかな)」
彼らを思うだけで、こんなにもやさしく表情を変える彼を見ていると、少し胸が苦しくなる。
「二人には幸せになって欲しいっていうのが、ずっと抱いてた俺の正直な気持ち。でも俺は止まってるわけじゃないよ。誰かさんがさっき、背中押してくれて、勇気くれて、怒ってくれたこと。ちゃんと届いたから」
だからと、ぽんと肩を叩かれた。
「前に進むためにも、ちゃんと紀紗に好きだったって言うよ。だから、ちゃんと奪還しに来てね下僕さん?」
「……当たり前です」
一瞬、誰かさんの顔がチラついたぞ。
……うん。幻覚だ。そうに決まってる。



