駅に着いた葵たちは、次にバスに乗り換えた。
道路整備がされていないのか、大きくバスが揺れる度隣のトーマと肩が触れる。
「す、すみません」
「いや。俺こそ」
僅かに身を窓側へと寄せる彼からは、「マズったな……」と、二人掛けの椅子に座ってしまった後悔が小さく洩れていた。
「……トーマさん。さっきは待ち合わせに遅れてしまって本当にごめんなさい。あと、コーヒーと切符のお金まで」
葵は話題を変えようと、鞄から財布を出そうとしたが、すっと横から伸びて来た手に静かに止められた。
「いい。お金には困ってないから」
「えっと。どういうことですか?」
「女の子からお金は戴きませんってこと」
「……?」
「え。君そこまでバカなの。さっきまであんなこと言って俺に恥じかかせたのに?」
「ええっ? ご、ごめんなさい!」
「だから黙って奢られてればいいよ。そもそも奢った気なかったし」
「……じゃあ、さっきの遅れてきたお詫びと、話を聞いてくれたお礼と、一緒についてきてくださる感謝を込めて、小さいお金ですが受け取ってもらえませんか?」
「だったら全然足りない」
「えっ?! じゃ、じゃあどうしましょう……」
葵の中でその答えが出る前に、トーマが代わりに答えてくれた。
「逃げずに俺の話をちゃんと最後まで聞いてくれたら。そのお金、受け取ってあげてもいいよ」
「――! はいっ! もちろんですっ!」
そして話始める、トーマの胸の内。
「まず、君は何のためにスマホを持ってるの」
「(あれ。思ってたのと違った。しかもどこかであったぞこの展開……)えっと、連絡を取り合うためです」
「その通り。それで、なんで君は遅れて来たの」
「えっと。道に迷ってしまいまして……」
「どれぐらい遅れて来たの」
「……30分です。すみません」
「だからそうじゃなくて。どうして連絡してこなかったのかって聞いてんの」
「あ! そっか! 連絡すればよかったんですね!」
「連絡先知ってんだからさ、電話でもメールでもしてきてよ。心配するでしょ。君そんなでもお嬢様なんだからさ」
「え」
「しかもこっち来るのは初めてって聞くし。それでなかなか来ないとか、何かあったんじゃないかって冷や冷やしてたんだけど」
「あ」
「だいたい、なんで連絡しようと思わないのか。持ってる意味ないじゃん」
「う」
「君の家の人心配するでしょそんななら。お願いだから、みんなに迷惑かけないでよね」
「……はい」
畳み掛けてくる刺々しい言葉には、心配がたくさん篭っていて、どこかやさしい響きだった。
「今後は気を付けて、みんなにも迷惑かけないようにしますねっ」
きっと生徒会メンバーのことを言ったのだろう。彼らに迷惑はかけない。――……絶対に。



