すべてはあの花のために①


 駅に着いた葵たちは、次にバスに乗り換えた。
 道路整備がされていないのか、大きくバスが揺れる度隣のトーマと肩が触れる。


「す、すみません」

「いや。俺こそ」


 僅かに身を窓側へと寄せる彼からは、「マズったな……」と、二人掛けの椅子に座ってしまった後悔が小さく洩れていた。


「……トーマさん。さっきは待ち合わせに遅れてしまって本当にごめんなさい。あと、コーヒーと切符のお金まで」


 葵は話題を変えようと、鞄から財布を出そうとしたが、すっと横から伸びて来た手に静かに止められた。


「いい。お金には困ってないから」

「えっと。どういうことですか?」

「女の子からお金は戴きませんってこと」

「……?」

「え。君そこまでバカなの。さっきまであんなこと言って俺に恥じかかせたのに?」

「ええっ? ご、ごめんなさい!」

「だから黙って奢られてればいいよ。そもそも奢った気なかったし」

「……じゃあ、さっきの遅れてきたお詫びと、話を聞いてくれたお礼と、一緒についてきてくださる感謝を込めて、小さいお金ですが受け取ってもらえませんか?」

「だったら全然足りない」

「えっ?! じゃ、じゃあどうしましょう……」


 葵の中でその答えが出る前に、トーマが代わりに答えてくれた。


「逃げずに俺の話をちゃんと最後まで聞いてくれたら。そのお金、受け取ってあげてもいいよ」

「――! はいっ! もちろんですっ!」


 そして話始める、トーマの胸の内。


「まず、君は何のためにスマホを持ってるの」

「(あれ。思ってたのと違った。しかもどこかであったぞこの展開……)えっと、連絡を取り合うためです」

「その通り。それで、なんで君は遅れて来たの」

「えっと。道に迷ってしまいまして……」

「どれぐらい遅れて来たの」

「……30分です。すみません」

「だからそうじゃなくて。どうして連絡してこなかったのかって聞いてんの」

「あ! そっか! 連絡すればよかったんですね!」

「連絡先知ってんだからさ、電話でもメールでもしてきてよ。心配するでしょ。君そんなでもお嬢様なんだからさ」

「え」

「しかもこっち来るのは初めてって聞くし。それでなかなか来ないとか、何かあったんじゃないかって冷や冷やしてたんだけど」

「あ」

「だいたい、なんで連絡しようと思わないのか。持ってる意味ないじゃん」

「う」

「君の家の人心配するでしょそんななら。お願いだから、みんなに迷惑かけないでよね」

「……はい」


 畳み掛けてくる刺々しい言葉には、心配がたくさん篭っていて、どこかやさしい響きだった。


「今後は気を付けて、みんなにも迷惑かけないようにしますねっ」


 きっと生徒会メンバーのことを言ったのだろう。彼らに迷惑はかけない。――……絶対に。